その他
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狂気の時代を私の祖父母はいかに生きたか
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書籍・作品名 : 私にはいなかった祖父母の歴史
著者・制作者名 : イヴァン・ジャブロンカ
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著者はフランス国籍の同化ユダヤ人の歴史家である。本書は、ポーランドのユダヤ人であった父方の祖父母の短い生涯をたどる本である。
1.故郷パルチェフ
祖父母のマテス・ヤブウォンカとイデサ・ヤブウォンカはポーランドのパルチェフという町が故郷であった。両親の世代までは伝統的なユダヤ教徒であったが、マテスとイデサの世代では若者は共産主義者であった。
ポーランド共産党も反ユダヤ主義という、プロレタリアを分断する反動的イデオロギーと戦うからである。「ポーランドにおけるほかの政治勢力の反ユダヤ主義のため、共産党に入る以外の選択肢」はないのである。
ユダヤの青年たちでは「良家の子供たちはシオニズム[ユダヤ人国家建設運動]に向かい、労働者の若者たちは社会主義に傾斜している」というので、両者は反目していた。
1933年8月頃から、マテスは町の通りに「横断幕を掲げたり、シオニズムの集会を妨害したりして逮捕され、1936年12月、出獄する。イデサも投獄されるが、1937年初頭、に釈放される。
2.フランスへ亡命
マテスは1937年8月30日、パリに到着した。
マテスはフランスに留まる許可を求めて、「フランス人権連盟」など諸機関に働きかけるが、結論はすべて国外退去であった。イデサも同様であった。イデサは1939年1月、女の子シュザンヌ、1940年4月、男の子マルセルを出産する。
マテスは、「パリでは、警察の恐怖、貧困、言葉と国籍の壁によりどのような闘争姓も打ち砕かれてしまう。」
「マテスの生活がポーランよりもフランスでさらにつらいものになったと思う。」「苦しみを耐え忍ばせてくれた理想がもはや苦しみを乗り越えさせてくれないことがつらさの核心であろう」からである。149
1939年9月1日、ヒトラーはポーランドに侵攻。同月3日、フランスとイギリスが参戦する。
マテスも志願する。つまり「マテスは心ならずも志願したのだとしても、デジレ通り[マテス一家の住所]の茅屋で彼のことを待っている家族に、抑圧も反ユダヤ主義もない世界と、その世界で生きる権利をもたらすために、自分の命を危険にさらすことを受け入れたのである」。
1940年9月28日、動員解除となったマテスはパリに帰着する。
3.終局
1941年8月、パリの警察による一斉検挙、1942年7月の一斉検挙を逃れたマテスとイデサは、1943年2月25日早朝逮捕される。ただ、子どものシュザンヌとマルセルは、用心のため夜間、近所のポーランド人に預けられていたため、危うく難を逃れる。子どもたちの後見人になってくれたのは、近くに住むいとこのアネット夫婦であった。夫はフランス人なので生き残ることができる。子どもたちは、その尽力によって生き延びる。
マテスとイデサは、一時、ドランシー収容所に収容され、1943年3月2日朝、強制移送列車はアウシュヴィッツに向け出発する。翌日夜到着したイデサは、その「数時間後、ガス室の匿名のカオスの中で消える。」(28歳)マテスは、ガス殺された「死体をガス室から運び出し、焼却炉で燃やすことを担当する」ゾンダーコマンドに選別される。
しかし、「世界がユダヤ人を見捨てる中、トレブリンカ、ソブブル、ヘウモノ、ビルケナウで、ゾンダーコマンドの中に反抗が起こったという事実は奇跡に近い。」アウシュヴィッツのビルケナウでは、1944年10月7日、彼らは蜂起する。
彼ら数人が隠した手記は事件後付近の地中などから発見されている。「そこに表出されているのは、死が確実であることで白熱状態となった、倫理的飛翔、知性、自己犠牲、尊厳である。暗闇の中に消えていくこの松明は、20世紀の奥底で無に帰することなく、そこを照らし続けている。」
マテスはどうしたのであろうか。マテスがこれらの反乱に参加したかどうかは分らない。「しかし行動しうる前に、チフスで死ぬ。あるいは粛清される。あるいはほかの何らかの形で」と結んでいる(34歳)。
本書の末尾近くにある次の条りは印象深い。
「私の書く歴史はユダヤ人について語るのではない」、「ガス室に押し込まれるのはもちろん私や私の家族である。しかし、それはまた、あなたとあなた子供たちであり、あなたとあなたの母、兄弟、孫たちである。なぜあなたたちなのか。私には分らないが、しかしやはりあなたたちなのだ。あなたたちは理由もなく苦しみ、そして時が満ちる前に死ぬ。・・・・・・なんの痕跡も残さずに。」
人間の愚行は止まることがないからである。
*この文章の詳細版は、ブログ「下手の本好き読書録」をご覧ください。
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