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文学
「新しき村」とは何?
書籍・作品名 : 白樺たちの大正
著者・制作者名 : 関川夏央  
ミニーシェル   70才   男性    http://kr253rk.blog.fc2.com/





1.白樺たち
文芸同人雑誌「白樺」は明治43年、創刊された。武者小路実篤、志賀直哉、柳宗悦、有島武郎、里見弴、長与善郎、高村光太郎たちが参加した。大半が学習院出身者である。「白樺」に結集した青年たちが白樺たちである。

白樺たちは、「大正中期に至って社会的影響力を手にした。」「大正中期、第一次大戦の影響で日本が異常な好景気に見舞われ大戦バブルの様相を呈したとき、生活向上と中等教育の普及とともに、市井の青年たちは自我拡大を強く意識した。彼らはなんにために生きるか、どう生きるかを真剣に考え、生活の『改造』を模索した。」

2.新しき村
2.1構想
武者小路実篤は、「白樺」大正7年(1918年)5月号に「新しい生活に入る道」という文章を載せた。『新しき村というのは、一言でいえばみなが協力して共産的に生活し、そして各自の天職を全うしようというのだ。みながつまり兄弟のようになってお互いに助け合って、自己を完成するようにつとめるのだ』とあった。

2.2その誕生
大正7年11月20日、宮崎県南部の児湯郡木城村石河内字城に新しき村は発足した。新しき村では、「しかし、子供二人を除く十八人の男女が働きはじめていた。」実篤の家族3人が含まれていた。

「朝は五時半に起床、冬至に近い頃だからまっ暗ななかを小丸川まで顔を洗いに行く。女たちは、五時には起きて飯を炊く。」「麦が四分米六分の飯」を「沢庵か生味噌だけで食べるのである。」「年末までにサツマイモ五百キロ、大根八十キロを得た」が、米は、「石河内自体が米をほとんどつくれない土地だった」から、購入する「食費はかさんだ。」他の白樺メンバーは「好意的な傍観者の立場を崩さなかった。」

文化活動は熱心に展開された。「雨の日には労働を休み、めいめいが絵を描いた。その成果を示すためにデッサン展を村内で開いた・・・・・・村内では食事時に順番にテーブル・スピーチを行ったり、実篤のオリジナル作品やチェーホフの朗読会が催された。」

大正9年に至って、「村には常時四十人前後の人々が住んでいた」。村の経済は、「自給自足にはほど遠く、実篤の原稿料と印税・・・・・・に頼ってようやく米と日用品を購入して息をついているありさま」であった。

つまり、「水田を開かなくては自給自足の生活などあり得なかった。水田開発には水路が必要だが、その開鑿予算は膨大なものになると予想された。」大水路の着工は大正11年晩秋、完成は翌12年7月であった。「しかし、水路はまもなく順調に水を運ばなくなった。・・・・・・至るところで崩落し、漏水をおこした。」

2.3その反響
「文藝雑事」という雑誌の匿名筆者による伝聞であるが、社会主義者、荒畑寒村は「あれは大の男の“共存村”ではなくて、お坊ちゃん方の“共存ごっこ”とおもえば間違いありません・・・・・・われわれ貧乏人には想像もつかない新生活です」と評したらしい。

著者は大正時代を、生活「改造への衝動の時代」とするが、その予兆としていくつか挙げている。西田天香の「一燈園」、伊藤證信の『無我苑』である。

有島武郎の農場解放の構想も新しき村に先行していた。明治32年から父武が北海道で開拓した有島農場を、武郎は「小作人たちによる共同所有共同経営とすることをもくろんでいた。」大正11年には、70戸が生活していた。同年7月、農場は解放された。有島武郎が、「婦人公論」記者の波多野秋子と悲劇的な心中をとげたのは、その翌年6月のことであった。

また、新しき村の実践は「同時代の青年作家たちに強い刺激を与えた。彼らはさまざまな態度でコミューンについて書いた。それは佐藤春夫、谷崎潤一郎、吉屋信子などであった。」

2.4その行方
大正14年12月、実篤は村を離れることにした。「実篤は都会の子であった。その実感は村の生活の中で次第に強まった。」二人の娘の行く先や東京の「老母のことがもっとも心配だった。」

不調な水路のその後であるが、大正14年には「稲田は三反五畝にまで減少した。設計をやり直して昭和3年完成させ、さらに農地の改良を行った結果、「米の作付面積二町歩」となった。

しかし、昭和15年、新しき村は、皇紀2600年記念の電源開発事業である小丸川のダム工事によってほとんど水没することになった。昭和14年8月、実篤は埼玉県入間郡毛呂山町葛貫に「東の村」の土地を求めた。昭和26年から「東の村では養鶏に着手」し、昭和33年には「創立40年にしてはじめて赤字を脱した」のである。

文豪たちの内輪めいた話はやはり興味深いものがある。武者小路実篤について、また大正という時代について大いに認識を新たにした。

*この文章の詳細版は、ブログ「下手の本好き読書録」をご覧ください。







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