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思想
読み継がれてきた不朽の名著、装いも新たに復刊! ――ヘーゲル『精神現象学』の成立過程を説き起こし、全行程を旅路に喩えて綴る
書籍・作品名 : 物語 ヘーゲル精神現象学――意識の経験の学
著者・制作者名 : 矢崎美盛  
寄川条路   60才   男性   





矢崎美盛著、寄川条路解説
『物語 ヘーゲル精神現象学――意識の経験の学』
46判・240頁・2500円(税込)、明月堂書店、2022年3月2日、ISBN: 978-4-903145-74-7

 本書は、矢崎美盛著『ヘーゲル 精神現象論』(岩波書店、1936年)の復刻本である。1974年に第10刷が発行され、その後、復刻版が1985年に発行されたが、入手困難になったため、また、読書家から復刊リクエストも出されていたため、今回、版元を改めて復刻されることになった。復刻にあたっては、本書の内容をわかりやすく伝えるために、旧字体を新字体に変え、書名を『物語 ヘーゲル精神現象学――意識の経験の学』と改めている。
 著者の矢崎は、哲学者・美学者であり、美術史家として知られている。本文は、ヘーゲルの『精神現象学』が成立する歴史的経緯の説明から始まり、ドイツのヘーゲル学者を紹介しながら、日本の読者をやさしく『精神現象学』へと誘っていく。一つの芸術作品として『精神現象学』をそれ自身のことばで理解するのが矢崎の読書法であり、後年の完成した体系から翻って解釈するのではなく、素直な気持ちで作品を読み始めていく。
 まず、ヘーゲルの哲学は「経験の哲学」であり、めざすところは「意識の無限性」である。『精神現象学』は、人間の有限な意識が経験を積んで無限な意識へいたる旅路となる。ここから物語の本論に入っていくが、序文は意識の経験がたどり着いた到着点であり、緒論は意識の経験が始まるまえの旅支度である。
 芸術史家である矢崎は、意識の「発見の旅行」を「精神の演劇」になぞらえて、最下位の意識である感覚から最上位にある絶対的知識までを、一個の喜劇として再構成する。感覚では、精神の中の俳優と観客が、演じる意識と見る意識となって交替する。知覚では、知覚の演出の結果、意識の対象が自己の中へ復帰することを経験する。悟性では、統一された力と多様な発現として、同一のものが自己を区別し自己に復帰して自己を意識する。後半の理性は、本来の理性、精神、宗教、絶対的知識の四段階に分けて考察される。
 最後に、矢崎は、序文に掲げられたヘーゲルの思想を再確認し、発見旅行の全道程を回顧する。現象学の主題は人間精神の形成と発展であり、ヘーゲルの『精神現象学』は永遠の中での『神統記』、精神の『オデッセー』となる。それは、地獄から天界にいたる全世界の記録を含む『神曲』でもあるという。意識の経験を一つの芸術作品として読み解く、芸術史家らしい矢崎のヘーゲル理解である。
 読者にしっかりと寄り添い、読者といっしょにヘーゲル『精神現象学』の全行程を歩む本書は、哲学の神品を前にして身をすくめる初学者を励まし、二人三脚で難解書を読破していく先達にも似ている。まさしく、ヘーゲル哲学への最良の入門書といえよう。(よりかわ・じょうじ=元明治学院大学教授、哲学・倫理学専攻)
【著者】やざき・よしもり=元東京大学教授・美術史家、哲学・美学専攻。






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