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思想
穂積陳重『法窓夜話』正続を読み終えて
書籍・作品名 : 『法窓夜話』正続
著者・制作者名 : 穂積陳重  
敦賀昭夫   69才   男性   





 穂積陳重『法窓夜話』正続を読み終えてを読み終えて 2017年6月5日

 私たちは、世界にまれな憲法を持ちながら、それを政治に活かしていない。それどころか、安倍晋三総理大臣は現憲法を忌み嫌っていて、全く憲法を無視した官邸政治を続けています。

 ここ数年、憲法を知っているだけでなく、どうしたら、それを政治や生活に活かしていけるか、いわゆる立憲主義の実現について考えてきました。

 法哲学者の井上達夫先生や国会議員の山尾志桜里氏によれば、立憲主義とは「権利の実効的保障」を意味するといいます。

 明治に東洋ではじめての憲法ができて、立憲国家ができ、さらにアジア太平洋戦争後、日本国憲法があらたに制定されましたが、その「権利の実効的保障」は実現しているのでしょうか。

 実は、私は最近まで、権利とは何か、それが自分と何の関係があるのか、それすら考えたこともありませんでした。極端な言い方をすれば、権利は金で売買できるものとさえ、考えてきました。でも権利は侵害されると人格も侵害されるという一人一人が人生を生きていくうえで、欠かせない、譲渡しえないものでした。でも、それを知らないのが実は今日の日本政治の最大の課題なのではないでしょうか。

 そう思って、権利の勉強をしようとあれこれ探していた所見つけたのが、穂積陳重『法窓夜話』正続です。原始の時代の法や権利の発生から解き明かし、それが支配者側、民衆側にどう受け入れられ、実際のトラブルの解決や防止に役立ってきたか、時代地域を問わず、正続100話ずつの小話というかたちで語り継いだ法理学の名エッセイ集です。

 一読して唖然としたのは、東洋では法は上からのお達しで、詳しいことは民衆には知らせなくても良いとされてきたということです。その時代は、戦後の国民主権の憲法が成立しても続いたのかもしれません。つまり私たちには生きていくうえで、使いこなせば、幸福や自由が拡大し、自分や他者の不幸を避けることが出来る権利があるのを知らずに生きてきたのではないでしょうか。

 権利が大切なのに、生活場面では「権利なんていうな」、「もめごとをおこしたいのか」という声の下で、互いに保障しあう取り決めが考えられなかったのです。私たちはもっと法になれるべきです。というよりも、穂積陳重、重遠両先生が指摘するように、もともと私的に存在していた権利要求のようなものがいかにして公的な保障に転換したのか(両先生は法律進化とよびます)に注目すべきです。

 主権者教育もこの私人が社会に入っていくときの取り決め(立法)に参加していく、そうでなくては意味がない。一生、警察や裁判所のご厄介にならなくて済めば、それに越したことはない。面倒はごめんだ。あるいは誰かの権利が侵害されていても、自分に関係なければ、世話役、代表の政治家先生に事前承認、事後承認を与えればもう十分だろう。選挙は長いものに巻かれることの承認の儀式で十分だ、そう考えている人が大勢いるかもしれません。そういう人たちは、権利は定期預金のように信用の出来る銀行にずっと預かってもらっていると考えられるかもしれません。でもその信用が崩れたときどうするのでしょう。

 現首相、以前辞めるきっかけになったのは、消えた年金問題でした。安心して掛け金を積み立てていたはずの年金が消えていたのです。今回は一億総活躍社会、国家戦略特区と言いながら、自分たちの仲間にだけ利益が流れる仕組みをつくって、国民の年金、医療、福祉はどんどん悪化しています。消えた年金問題では権利は消されていたのです。

 今、私たちが注目すべきは、国がどう私たちの権利の実効的保障に取り組んでいるかです。国はわざとわかりにくい法制を駆使して、私たちを私たちの権利を守る取り決め(立法)から遠ざけようとしています。先人の紛争解決や防止の智慧にまず学び、それがどのように現在の権利保障の取り決めに活かされているのか、あるいはいないのか考える意味でも、この2冊をこれからもハンドブック代わりに使いたいと思います。






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