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学術
日中国交正常化の歴史認識
書籍・作品名 : 日中国交正常化ー田中角栄・大平正芳・官僚たちの挑戦
著者・制作者名 : 服部龍二  
敦賀昭夫   69才   男性    敦賀昭夫





日中国交正常化の歴史認識
 服部龍二『日中国交正常化―田中角栄・大平正芳・官僚たちの挑戦』を読んだ。
 今年は日中国交正常化50年の年。一読して今の政治家や官僚はこの日中国交回復交渉を学ぶべきだと思った。著者が当事者の証言や資料によって日中共同声明の成立までの政治過程の解明は日本外交史の記憶遺産だ。
 交渉の中でとくに重視されたのが、日本側の反省の表明、戦争状態の終結の時期と日華講和条約に代わる平和友好条約の締結。
 まず反省について、中国側は軍国主義の反省を要求したが、軍国主義を削る代わりに、戦争に対する責任への反省が入った。
 戦争状態の終結については、すでに日華講和条約で日本側は戦争が終結したと考えていたが、中国側は強く要求した。結果は不正常な状態の解消という文言になった。また中国と国交を正常化するということは台湾と断交するということだが、台日関係について、は両国平行線のままだったが文面では断交表現は消えた。
 この3つの項目は現在の日本の日中関係の理解、歴史認識の違いを理解するためにも重要だ。中国はこの時まで日中戦争が継続していたと理解していた。一部の軍国主義者がおこした戦争の反省、それを要求していた。軍国主義者の継承者ではだめなのだ。日本側は大平外相が罪の意識を鮮明にし、軍国主義表現は消したが、戦争の罪に対する責任を鮮明にした。戦争状態がいまだ終結していないという中国側のクレームは二度と軍国主義の復活を許さないという日本側の意思表示を求めたものといってよい。
 反省に戦争への責任の言葉が入ったのは特筆すべきだった。今でも戦争責任問題は天皇以外が関与する問題ではないと思われがちだが、この日中共同声明で、戦後の日本政府が戦争の責任を引き受ける主体であることが明示されたのだ。
 それに比べて台湾問題は双方の主張が緩和されたものの並立される形で決着した。まず声明時点での中国が一つの中国であることは日中共に合意。ただ、中国は自国がその唯一の政府と断言。日本側は台湾との断交はいれず、外交、民間交流共に台湾との交流の続行を認める表現を入れた。
 そのほか、交渉に入る前に心配されたサンフランシスコ講和条約を前提とした正常化、賠償放棄問題は意外なことに中国側は一切反発しなかった。
 あまりにも台湾問題が大きかったために、1つの中国論だけ強調されたが、実は、戦争終結の歴史認識(その時代まで戦争を開始した軍国主義の日本が中国にとっての日本だったが、その戦争に責任を感じて反省した日本が軍国主義ではない政府であることを明確に表明した)で合意したこともそれ以上に大きい。田中、大平の日本政府は戦争責任を反省した。戦前回帰を進めようとしてきた現自民党政権とは決定的に違う。もう一度、この戦争の責任を罪の意識をもって反省した日中共同声明の地点の歴史認識を学び直したい。






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