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学術
御大層な書名が「誇張法」の最も効果的な実例
書籍・作品名 : 「超」実用的文章レトリックス入門
著者・制作者名 : 加藤明 朝日新聞出版 2017.4  
すすむA   58才   男性   





ヒトは言葉を得ると同時にそれを最も効果的に伝える技術も学ばなければならなかった。当然と言えば当然だが、それをレトリックrhethoric;修辞または文彩、「言葉を効果的に使って適切に(美しく)表現する言語技術」(〚新明解国語辞典〛=著者による引用)と命名して法則化してみせた古今の学者の知ったかぶりもたいしたものである。

新書版という限られた頁数の中で、本書はこれらを羅列して見せる。「法」とつけさえすればすべてが学術語になるお手軽さだが、本書の一つの特徴として、著者はそれをいくつかの便宜的で解りやすいグループに区分けする。

1)簡単で頻度が高いレトリック……列挙法、三例法、倒置法、追加法、挿入法、
2)人を引き付けるレトリック……擬人法、対照法、奇先法、問いかけ法(問答法、設疑法に細分化される)共感覚法、
3)現代を映し出すレトリック……婉曲法、誇張法、漸降法、漸層法、偽物法、
4)何かに喩えるレトリック……勅諭、隠喩、換喩、提喩、声喩(=オノマトペ、これも比喩?)
5)小枝のレトリック……情報待機法、破調法、反復法(畳語法、畳点法、首句反復、結句反復、善辞反復に細分化される)、省略法、黙説法、現写法、逆言法、緩叙法、修辞疑問法、添義法、
この他にも、遠近法、挙例法、皮肉法、更には体言止め、などという術語も加わる。まさに「レトリックの海でおぼれてしまいそう」だ。

それらのほとんどの「法」に、著者は既存の書物から引用した例文を添える。その博覧強記ぶりは、さすが元コラムニストだと感心するのだが、挙げられた例文は暇つぶしにもならない「駄文」随筆(一言付け加えておけば、人生において暇つぶしは大切だ。その滅多に得られない珠玉の時間を、つまらないエッセイストの売文なんかと付き合ってはならない)が多く、感覚的でどれも軽く、いささかがっかりする。論理的な例文も欲しかった。それにしてもレトリック過剰の文章は、作者には独りよがりを押しつける気分の良い書きものだろうが、肝心の内容が乏しいという好例になるのかもしれない。

もちろん素晴らしい例文もある。一番感心したのは長田弘のエッセイ集〚感受性の領分〛から採った次の文章で、著者はこれを「対照法」の例に挙げているが、レトリックを学んだだけでこんな名文が書けるわけがないことは明らかだろう。

「野球というのは風変わりな魅力をもったゲームで、ラグビーでもフットボールでも、どんなボール・ゲームでも肝心なのは、ただ一つボールの行方だ。ポールの行方が、勝負を分ける得点を挙げる。だが、野球だけはちがうのだ。野球で得点できるのは、ボールの行方ではなくて、あくまで走者の足、ひとの足で、いましも走者がホームベースを踏んで得点しているときですら、たいていボールははるか遠くで、何かべつのことをやっている。」

レトリックに対する批判がないのも本書のもう一つの特徴である。直喩と隠喩に関していえば、「~のような~」で結ぶ直喩は、その結び合わせが如何に馬鹿々々しいものであっても、著者が「そう感じたのだから仕方ない」と反論を許さないところがあるが、「~は~だ」と言い切る隠喩は、その連結はおかしいと大いに反駁する余地がある、と私は思っているのだがどうだろう。成功例、不成功例も挙げて、レトリックの恐ろしさも喚起して欲しかった。

また、学術論文などでは、「言い換えれば」とか「例えば」という語の後に続く文章に、深く納得させられることが多いのだが、それは何というレトリックなのであろう。

何はともあれ、日ごろから良い文章を書きたいと願っている私には、文章の運びから無意識に使用し、自分では「気の利いた書き方」とほくそ笑んできた言葉づかいが、本書で「レトリック」というブッキシュな叙述法に含まれていることを知り、今後は多少ともそれらを意識して書きたいと思わせた収穫はあった。

最後に言えば〚「超」実用的文章テクニック入門〛という御大層なタイトルが、「誇張法」というレトリックの最も効果的な例であるのかも知れない。






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