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学術
マルクスを引き継いで発見した「地平」とは
書籍・作品名 : アーレントのマルクス-労働と全体主義
著者・制作者名 : 百木獏 人文書院(2018.2)  
すすむA   57才   男性   





タイトルか示すように、アーレントのマルクス評である。著者はアーレントとマルクスの間には強い共通点が認められるとし、さらにアーレントはマルクスの「誤読」によって、彼女自身の新しい思想の地平を見出したとする。

著者はアーレントのマルクス批判をまとめて、1)マルクスは人間の生存手段にすぎない「労働」を過剰に賛美して、人間を<ポリス的動物><理性的動物>と定義してきたギリシャ以来の伝統的観念を覆し、<労働する動物>像を創造した。2)その結果<労働する人間>をコントロールする機能としての共産党独裁やナチズムなどの「全体主義」が出現する土壌を準備した、とする。

これに対してアーレントの側は、人間の営みを労働、仕事、活動に3区分し、労働を蔑む一方で仕事、活動を高く評価する。キ―ワードは耐久性で、短期的に消費され耐久性に乏しい「労働」は下位に置かれ、個人の生存期間を超える耐久性を有し、後世に受け継がれ得る「仕事」と、やや判りにくいが、社会の公共性に寄与し、それ自体は賞賛以外の具体的な返礼を受けない「活動」を上位に置いた。

著者によれば、アーレントのマルクス誤読は、1)マルクスはG-W-G‘という資本の自己増殖運動とその中での<労働する人間>の寄与を分析したのであって、「労働」を賛美したわけではなく、それどころか「労働からの疎外」を憂いていた。2)「プロレタリア独裁」と「生産手段の国家所有」は、マルクスの死後エンゲルス=レーニンが考えた体系で、マルクス自身は自律的な「アソシエーション(協同体的な協働)社会」を理想と考えていたことから、明らかだとする。

協同組合的労働を考えていたマルクスの「労働」観には、アーレントの「仕事」や「活動」も含まれている。逆に「仕事」や「活動」から「労働」を排除すれば、それらに仕事は食うに困らない貴族のお遊びとなってしまう。アーレントがそんなことを理解しなかったはずはなく、むしろ労働/仕事/活動が曖昧化した近代労働(労働のキメラ化)の在り方を批判するためにあえて導入した区分だという。著者は「キメラ化した労働」こそが「全体主義出現の予兆」であるとアーレントは考えていたはずだと強調する。「労働」を崇高と考えるあまり、(キメラ化された)労働から離れた人間は全く行き場を失うと言いたいようだが、この百木「新造語」が本書の中で唯一理解し難い概念だ。

ではアーレントがマルクスから得た「地平」とはなにか。経済的な資本の大義を、資本主義的政治の大義「膨張のための膨張運動」に拡大した結果に発見した「社会的なもの」である。アーレントの「社会」とは、人間が種の保存のために形成する「家族」が、近代社会における労働の肥大化に伴い「経済的に組織されて、一つの超人間的家族へと複写されたもの」と定義されるが、この社会的領域の出現によって、「かつては家という私的空間の中に閉ざされていた経済的な諸問題が、国家全体の関心事と」なって「公的なものと私的なものの境界があいまいなものになってしまった」と言う。「自然なものの不自然な成長」である。近代社会の特色はこの私的なものが「政治」に取り込まれ管理されることにある。そこにはダーヴィニズムを根底にする「排除の理論」が絶えず付きまとう。

この文脈の行きつく先が、彼女の生涯かけてのテーマである「全体主義」であることは論を待たないであろう。アーレントはここでもマルクスに欠落していた「世界」という概念を導入する。世界の安定性と永続性がなければ人間の「不死性」はかなわない。従って人間の営みは「労働」を超えて、「仕事」と「活動」に向かわなければならないと。アーレントの主張の原点に戻ることになるが、ここまで説明されれば、彼女の主張が「原初状態」に留め置かれていないことは明白だろう。

その道筋が「活動」(特に政治)への回帰であることは、誰しもが疑い得ない。では具体的な方法は。マルクスが不明瞭ながらも「アソシエーション化された社会」という見取り図を提出しているがその道筋は示されないのに対し、アーレントには逆に見取り図はないが、道筋を示す。驚くことは、嫌悪していたはずの「労働者」が世界の変革を担える唯一の「組織された力」を有すると認めたことだ。労働組合のことだが、資本に認知された経済的圧力団体ではなく、ハンガリー革命(1956)時に労働者たちによって自発的に組織された「協議会制度」が念頭にあることは明らかだ。だが一世紀に及んだフランス革命を始点とする。これらコミューンと呼ばれる運動はことごとく挫折しているのが実態である。とにあれ、マルクスの理想の実現はまだまだ先のことだが、アーレントの全体主義の方は、その再現が近づきつつある現実がある 。

この内容豊富な著書を「手引き」として、二人の主要著書をもう一度読み返したい。






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