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評者◆増田幸弘
カフカ賞と村上春樹さん
No.2895 ・ 2008年11月22日




 村上春樹さんがカフカ賞を受賞し、プラハに来たのは2006年10月のことだった。主催団体であるカフカ協会を通じ、チェコのメディアのため、事前にインタビューを申し込もうとしたのだが、なかなかうまくいかなかった。協会が認めても、仲立ちしている出版社が日本人記者だからだめだというのだ。
 授賞式がおこなわれた日、まずヴァーツラフ広場にあるホテルで記者会見がひらかれた。記者会見の参加は協会を通じてお願いをし、許可は得ていた。しかし、日本人の記者はこの会見にも参加できないと、受付の人たちは取り合おうとしない。滅多に公の場に姿を現さない村上さんを取材しようとしていた日本の新聞各社の記者たちは途方に暮れた。多くはヨーロッパにある支局から来た特派員だったが、日本からはるばる授賞式の取材のためにきた記者もいた。
「おめでたい席だというのに、いったいどうしたことでしょう。みなさん、団結しましょう」。一人、息巻いている人がいた。テレビ局の特派員だった。妙に浮いていた。「おめでたい席」という言葉がいまも耳に残る。日本大使館の見知った顔がいたので、記者会見に参加できるよう、再度頼んでもらうことにした。撮影はいっさいおこなわないとの約束で、なんとか許諾が出た。
 なかなかいい記者会見だったが、写真を撮れないことにうずうずした。それでも約束通り、シャッターは押さなかった。会見のあと、インタビューをしているチェコの記者もいたので、メディアが完全にシャットアウトされているわけではなかった。ホテルを出るとき、日本の記者たちは村上さんにぶらさがった。そのとき、「写真撮影はかまわないが、映像はとにかく困る」といって、同行の出版社の編集者らとエレベーターのなかに吸い込まれていった。
 授賞式は観光名所にもなっている天文時計のある旧市庁舎でおこなわれた。受賞のスピーチで、15歳のときに『城』を読んで以来、カフカの作品はほぼすべて親しんできたと、自身のカフカ体験を英語で語った。撮影ができるようになったので、授賞式の模様をずうっと撮っていた。
 そんななか、テレビ局の特派員は苦虫をかみつぶしたような顔をして、なにやら携帯電話で話しているのが目に入った。「おめでたい席」だというのに、なんだか不謹慎な気もした。撮影不可との村上さんの意向が事前に伝わっていたので、日本のテレビ局で取材にきているのは一社だけだった。
 授賞式のあと、何人かの日本人記者と食事にでかけた。とにかく記事にできるという安堵感があった。しかし、ほどなくしてそれも打ち破られた。日本のテレビで授賞式の模様が放映されたとの連絡が入ったからだった。撮影もしていないのにどうしてかと思ったが、唯一撮影が許されたチェコのテレビ局から日本のテレビ局が放映権を得たとのことだった。電話をしていたのはその交渉だったらしい。
 それを知った村上さんは激怒した。無理もない。翌日には書店でサイン会があり、チェコでも大人気の村上さんらしく、熱心な読者がおおぜい並んだのだが、撮影はいっさい認められないことになった。読者と自然に語り合う姿はなかなか素敵だったのに残念だった。
(写真はプラハ旧市庁舎でのカフカ賞授賞式の模様)







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