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評者◆増田幸弘
編集者の目線、物書きの目線
No.2907 ・ 2009年02月28日




 新聞に連載をしていた記事を見たと、ひとりの編集者が新聞社経由で連絡をしてきた。新聞はさすがに発行部数が多く、読者層が幅広いだけあって、記事を書くと、なにがしかの反響があることが少なくない。かつては他の媒体から取材先の連絡先を教えてほしいという内輪ネタみたいなことが多かった。近ごろは否定的であれ肯定的であれ、だれがしかのブログのネタになることも多いようだ。

 こうしたブログのなかには的を射たものもあるし、ちょっと首をひねる反応もある。ブログを「媒体」としてとらえるべきなのか、そうではないのか、よくわからないが、この20年間で「媒体」の意味が変わったのはたしかだろう。

 その編集者は記事が新聞にいつからいつまで掲載されていたのかを知りたいという。編集者の資料にでもなればよいだろうと、ゲラで受け取っていたPDFを送った。編集者が図書館にコピーしにいく手間がそれで省ける。学生のころからよくその出版社の本を読んでいたこともあって、なんとなく親近感を覚えていた。

 連載に目を通してくれた編集者は、本にできる可能性を探りたいといってきた。願ってもないことである。ただし、これから企画会議を通す必要があり、そう簡単なことではないと釘を刺す。しかも、その会議は二段階に渡っておこなわれるのだという。出すべきか出さざるべきか、売れるか売れないかなど、企画について、多角的・多面的な討議がそこでなされるのだそうだ。

 新聞に連載した時点で、原稿は新聞記事としてまとまったものになっている。担当の記者やデスクが目を通して、新聞に掲載するに値する記事として完成しているわけだ。だから、そのまま単行本になるだけの質は備えており、掲載にあたって省いた部分などを加えれば、それで本になるだろうとぼくは踏んでいた。

 しかし、その編集者は、そうではない、という。「連載を並べ替えてそのまま本になったら、これほど楽なことはありません。一冊の本としての一貫性、明確なテーマ、章ごとの話の流れ、読者を飽きさせない工夫など、本にするにあたって押さえるべき要点はいくつもある」と彼はいうのだ。そのために、途中で息切れしないよう、根気よく取り組むのが得策だと諭す。

 たしかに彼のいう通りである。そして、彼を通じてはじめて単行本の編集者がもつ目線に触れたような気がした。これまで仕事のうえで、数多くの雑誌や新聞の編集者のお世話になってきた。単行本の編集者の知り合いも多いし、これまで単行本を書いたり、あるいは単行本に寄稿してきたりもした。ぼく自身が単行本の編集者として仕事をしたこともある。しかし、彼のような目線で仕事をする編集者との出会いははじめてのような気がする。彼が言っていることがごくごく基本的なことだとしても、である。

 いまプラハで生活をしながら、おもに日本の新聞や雑誌に記事を送っている。発表をする媒体はまだ決まっていないが、長い時間を掛けて取材をしてこつこつ書いている原稿もある。こうしたなかで、ぼくが書こうとしていることと編集者が求めていること、さらに読者が求めていることやその反応のあいだにあるギャップのようなものがうまくつかみきれず、もがき苦しむことがある。

 日本では自分がつくった新聞がキオスクに並んでいたり、雑誌が書店の棚に並んでいるのを見るだけでも、ある種の安堵を得ることができた。そんなことは別に取るに足らないことなのかもしれないが、なにがしかの実体を感じることができたのである。しかし、いまはそれさえ望めない。まるで暗闇のなかを歩いているような心持ちにときおり打ちひしがれることがある。

 だからつい担当の編集者につい愚問を投げかけていることに気がつく。この記事をどのような目線で書いたらよいのだろうかとか、十二分な取材をして撮影をしているにもかかわらず、まだ足らないのではないだろうかということを、つい尋ねているのである。迷走して、無駄になって捨てていく原稿も多い。

 ぼくのそんな愚問にさらりと答えてくれる編集者もいれば、なんでそんなことを聞くのかと訝る人もいる。お任せしているので、と口を濁す人もいる。もっともお任せコースに限って、あとから予期せぬ事態が発生し、面食らうことが多いのはたぶん世の常なのだろう。

 声をかけてきてくれた編集者の手で、連載原稿がこれから本になっていくのかどうかはよくわからない。もしかしたら会議で企画が通らず、日の目を見ないのかもしれない。でも、そんなことは別に二の次のことだと感じてしまうほど、今後ものを書いていくうえで根源的ななにかをこの編集者とのやりとりを通じて気づかされた。しかも、そのなにかは、どうもぼくが日本を離れてまで探そうとしていたもののようなのである。








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