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評者◆小松崎健郎
キンクスの謎を解く鍵がここに――ザ・キンクスの6枚組ボックス・セット『ピクチャー・ブック』(UICY‐91340/5)
ピクチャー・ブック
ザ・キンクス
No.2911 ・ 2009年03月28日
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それにしても昨年秋から今年にかけて日本のオールド・ブリティッシュ・ロック・ファンにとっては、まさに狂喜乱舞とでも言うべき状況が続いてるのではなかろうか。もちろん、たとえばローリング・ストーンズだと初期のアルバム17枚(うち1枚はDVD)を収めた世界中のストーンズ・マニア垂涎のコレクターズ・ボックスが発売されたり、また映画『シャイン・ア・ライト』が公開されたりといったトピックもあるのだが、同じくらいの快挙であるのは短期間の間に大物アーティストの来日ラッシュが続いているということである。ザ・フーの単独での公演に始まり、エリック・クラプトンにジェフ・ベック(2人のジョイント公演までも実現)、さらにはロッド・スチュワートも控えているという状況だ。頬を緩めるのと同時に財布の紐も緩みっぱなしな方もきっと多いに違いない。
個人的に感慨深かったのはザ・フーの武道館での公演だった。これは発売とほぼ同時にチケットがソールドアウトとなったわけだが、そのパフォーマンスも実に素晴らしいものであり、きっと日本の洋楽史に於いてエポック・メイキングな出来事として語り継がれることだろう。英国に於ける3大ロック・バンドといえばビートルズ、ストーンズ、そしてザ・フーのことを指すわけだが、考えてみるとこれでいずれもが武道館でライヴを行なったことになる。一方、4大ロック・バンドという言い方もあって、その際にはこれら3つのバンドにキンクスを加えるのが一般的である。 キンクスは過去に3回来日している。けれども武道館で公演したことは一度たりとてない。英米での人気に反比例するかのように、いずれも小振りな会場ばかりだった。95年に来日した際には川崎のクラブ・チッタのような、いわゆるライヴ・ハウスでも演奏したほどである。とはいうもののそれが妙にはまっていたあたり、今なお英国労働者階級の英雄とも称されるキンクスのキンクスたる所以なのかもしれない。 そんなキンクスだが96年6月のノルウェーでのコンサートを最後に活動を停止して以来、レイとデイヴのデイヴィス兄弟のソロ活動は別にしてもバンドとしては一切公の場に姿を現していないのだ。解散宣言も出さないままにである。けれども昨年夏頃より俄かにキンクス周辺が慌しくなってきている。というのも、デイヴィス兄弟がバンドの再編に関する話し合いの場を持ち、すでに曲作りを始めたばかりか、その再始動するキンクスは60年代当時にメンバーであったピート・クウェイフ(ベース)、さらには80年代にリタイアしたミック・エイヴォリー(ドラムス)を加えた4人編成になる可能性が高いと報じられたからである。もしそうだとするとこれは64年のデビュー当時のオリジナル・メンバー4人によるキンクスが復活するということに他ならないのである。 そういえば、これがキンクス再始動の意思表示の表れの一つなのかどうか僕には分らないが、彼らの30年以上にも及ぶ歴史を包括する6枚組ボックス・セット『ピクチャー・ブック』(ユニバーサルインターナショナル:UICY‐91340/5)もこの2月に発売されたばかりだ。「ユー・リアリー・ガット・ミー」に始まる彼らの古典的な大ヒット曲、名曲はもちろんのこと、デビュー前の貴重なデモ音源や未発表曲などが137曲も詰まった、まさにキンクス・ファンのみならず全ブリティッシュ・ロック・ファン必携の素晴らしい内容に纏められている。 さて、このボックス・セットを聴きながら僕の心の中にはうがった見方かもしれないのだが、もしかするとデイヴィス兄弟の真意はオリジナル・メンバーで一度バンドを復活させることによってそれで封印すること、もっとはっきり言ってしまえば解散させることにあるのではないだろうかという思いがよぎったりもした。考えてもみて欲しいのだが英国の4大バンドのなかで、デビュー時のオリジナル・メンバーが今なお健在なのはキンクスだけなのである。ビートルズはジョン・レノンとジョージ・ハリスン、ストーンズだとブライアン・ジョーンズ、そしてザ・フーもキース・ムーンとジョン・エントウィッスル、いずれもすでにこの世にはいない。そう、オリジナル・バンドでの再始動が可能なのはキンクスだけなのだ。だからこそ一枚アルバムを作り、そして大々的なツアーを行なった後にきっちりと解散宣言をするのではなかろうか。あくまでも僕の勝手な解釈であり推測の域を出ないのだが、とにかくリーダーのレイ・デイヴィスはキンクスに決着を付けたいはずだと思う。 96年以降、13年にも及ぶキンクスとしての沈黙のなかにあって、なぜ解散を発表しなかったのか、その謎を解く鍵が、このボックス・セットおよび再始動のニュースに込められているような気がする。68年にピート・クウェイフが脱退した際、レイがキンクスの解散を考えていたということは、自伝風小説『エックス・レイ』からも明らかだし、実際に僕もインタビューした時に同じような発言を耳にしている。「バンドというのは最初に始めたときのメンバーが一人でも欠けてしまえば、それはたとえ新しいメンバーを加えたところで、まったく違うバンドになってしまうんだよ」 答えはきっといずれ出されるはずだ。果たしてどう転がるのであれ、今から僕は心の準備をしておこうと思っている。今までもファンの期待を裏切ることはあってもキンクスだけは自分達に常に誠実なロック・バンドであり続けたのだから。 |
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