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評者◆杉本真維子
遮るもののない手
No.2917 ・ 2009年05月09日




 ほんとうに素朴な疑問なんだけど、気になることが一つある。
外出先で、トイレに入ったときに、手を洗って、手を拭いて、そのあとで、出口のドアノブをつかむ。その際に問題なのは、トイレに入ったからといって、必ずしも、手を洗う人ばかりではないということだ。
 つまり(私は潔癖症ではないのだけど)、手をきれいに洗っても、手を洗わない人がつかんだドアノブをつかんだら、自分も、手を洗わないのと同じことになってしまうのではないか。とすれば、洗っても仕方がないことになるが、だからと言って洗わないのも気分がよくない。
だから、予めドアを開けておいて、片足を横に伸ばして挟んだ姿勢のまま、手を洗って、ドアが閉まらないうちに、体当たりするようにすり抜け出るのがいいかもしれないが、そんな格好を誰かに見られたら、とても恥ずかしい。
 でも、それ以前に、ドアが足の届かない、遠いところにあったらどうするかで、やはり最終的には、直接手を触れずに、ドアノブにハンカチなどを当てて出るのがもっとも無難であるように思える。けれども、また心配になるのは、そのハンカチの、ドアノブに当てた面で、ついうっかり手を拭いてしまったら、手を洗わないこととまた同じになってしまうのではないだろうか。
 もうこうなったら手を洗うことなんかやめたほうがいいのだろうか。でも、本当は、手を洗う、拭く、ドアを開ける、という順番が、そもそも間違っているのだ。手洗いシンクのある場所は、トイレという一室の外に、完全に分離されてあるべきで、昔の家は、みんなそうだったはずだ。つまり、出口のドアを開ける、手を洗う、手を拭く。
 なんてシンプルで、素晴らしい順番なのだろう。手を拭いた動作から、何も遮るものがなく、ふわっと次の行動へ移っていく、軽やかでさらさらした手が、目に浮かぶようだ。







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