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評者◆増田幸弘
森山大道との果たせぬインタビュー
No.2933 ・ 2009年09月12日




 森山大道さんとはじめて会ったのはかれこれ20年近く前のことだった。週刊誌のデスクと新宿のバーで飲んでいるとき、デスクと懇意にしている森山さんが彼を訪ねて顔を出したのだった。一緒に仕事をしているデスクと、森山さんの結びつきが不思議な気がした。が、聞くところによると、もうずいぶん長いつきあいなのだという。

 森山さんは彼の代表作として知られる犬の写真のポスターをもっていて、それをバーの壁におもむろに貼りだした。近年、世界各地の美術館で森山さんの写真展が催されているが、このときほど強い衝撃をもって彼の写真に触れたことはなかった。

 森山さんはぼくとデスクのあいだの椅子に腰掛けた。二人はときおり二言三言、言葉を交わしたかと思うとしばらく黙ってウィスキーの水割りを口にしていた。沈黙は長かった。そのとき間抜けにもぼくは森山さんにインタビューをしたいと申し込んだら、拍子抜けするくらい簡単に快諾してくれた。それからぼくは森山さんの写真集や書いたものをそのデスクから借りたり、あれこれ自分で手に入れたりしてきた。

 それから森山さんは次々に写真集を世に出していった。ヒステリック・グラマーのシリーズや、ポラロイドで撮影したもの、新宿を撮ったもの、ハワイを撮ったものなど、猛烈な勢いだった。『にっぽん劇場写真帖』や『写真よさようなら』から、『光と影』を経て、『サン・ルゥへの手紙』に至る20年間の寡作ぶりに比べ、それ以降の20年は打って変わって多作になった。図書新聞から刊行された「NORTHERN」という北海道で撮影した写真集がまた今年そこに加わった。

 ぼくがインタビューをバーでインタビューをしたいなどといったのはちょうどその狭間だったものだから、森山さんが次々に発表する作品群を前にフォローするのが精一杯で、結局まだ実現できていない。彼の撮る写真や、彼の紡ぎ出す言葉を前にすると、さして意味のあるインタビューなどできそうにもないし、作品をつくりつづける巨大な存在に、そもそも批評さえ、無意味に思える。森山さんは森山さんとして、完結してしまっているからである。

 バーでの出会いから15年近くが過ぎて、お世話になってきたデスクが新聞社を退職することになった。そのパーティーをするとき、森山さんに幹事の一人として名前を連ねていただくことになった。件のバーに行けば森山さんに会えるとのことだったので、とくに約束もせずに出かけていった。電話でお願いをするのは気が引けたし、だからといって面会の約束をするようなことでもなかった。

何杯かの水割りを飲んだころ、森山さんがふらりと現れた。少し間を置いてから、森山さんに幹事になってもらいたいとお願いをした。もちろん快諾をしてくれた。集まりは同じくデスクと親交のあったアラーキーも顔を出してくださり、楽しく盛り上がった。そのとき出席者を集めて撮った記念写真が手元にあるが、森山さんは拳を突き上げて映っている。

 会が終わってしばらくして、森山さんから一通のはがきが届いてびっくりした。「よい会だった」とそこには書いてあった。こうしたやりとりはぼくにとって下手にインタビューをして、たくさんの言葉を連ねるよりも、森山さんという一人の写真家を物語っているような気がする。







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