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評者◆杉本真維子
伝書鳩
No.2941 ・ 2009年11月14日




 「これを飲むとばかとでぶが治るから渡しなさい。」
ある「男」のもとをたずねると、帰り際、めずらしい効用がある、というお茶を二つ持たされた。自分が飲むと天才になってしまうから飲めないという。
 渡しなさい、というのは、ある「女」へである。説明しておくと、この二人は以前から深い因縁があって、私は子どもの頃から、伝書鳩のように、彼らのあいだをバサ、バサ、と都合よく飛ばされている。
「まさか、そんなこと言えませんよ、第一、ばかでもでぶでもないですし」と断ると、
「大丈夫だからちゃんとそう伝えるように」と余裕の笑みで念をおされた。
 翌日、「女」のもとを訪ね、かなり躊躇したが、勇気を出して言われたとおりに伝えた。すると、意外にも、
 「どっちのお茶でばかで、どっちのお茶ででぶが治るの?」
と質問された。おかしな反応だ。いやな予感がしてきたところへ、タイミングよく「男」からの電話が鳴った。ちゃんと伝えたかどうかの確認である。
 「伝えたのですが、どっちがばかでどっちがでぶか、と本気で質問しています。でも、私としては、そういう問題ではないと思うのです。なんだか二人とも、言っていることがおかしいと思うのですが……」
 すると、「男」は、まったく動じることなく、
 「だから、こっちがばかで、こっちがでぶでね……」と説明する。
 いったい、どういうことなんだろう。そもそもそんなお茶なんかこの世にあるものか、と思ったが、仕方なくまた「女」に伝えた。すると、ああ、そう、と静かに呟いて、台所へと入っていった。どうやら、お湯を沸かしているらしい。
 「はい、これを飲みなさい」
 そう言って微笑むと、しろい湯気の立つ湯呑を私に差し出した。一口のむと、身体があたたまった。
 そういう問題が、どういう問題なのかはわからないが、伝書鳩にはそれ以上考えられないことであった。ごちそうさま。そう礼を言って、またバサ、バサと、飛んでいった。








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