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評者◆小嵐九八郎
銀河系の星を顕微鏡で見るような――現代短歌研究会編『〈殺し〉の短歌史』(本体二八〇〇円、水声社)
No.2982 ・ 2010年09月18日




 先月のこの欄で、現在の小説の論に対して短歌の論の水準を示す本、『〈殺し〉の短歌史』(現代短歌研究会編、水声社刊、本体2800円)を、谷岡亜紀さんの「他者の死は現物、そのものを通じて解る」、「文学のイマジネーションによる死への到達は、寺山修司を含めまがいものの危うさ」旨(といっても、カギ括弧内は小嵐の勝手な読み)で代表させて記した。
 無論というか、短歌的抒情による人間関係の濃密さにやや閉口している当方なので、谷岡亜紀さんとの面識や利害というのはない。そもそも、この人が男か女かも分かっていない。ただ、谷岡亜紀さんの《月光あまねき冬の砂丘を人歩めり自爆の前という静けさに》などの歌は知っていたし、自虐も加虐も手の平に入れて五七五七七のリズムの核心が体内に生きづいているとは思っていた。その上で、短歌は短い詩ゆえにその作り手の生を炙り出すし、生の枠から歌も規定されてくると、今度の〝他者の死〟の論でも思った。歌人はあんまり語ると歌自身についておしまいのところがあるけれど、そうではない、銀河系の一つの星を顕微鏡で見るようなところがあるのだ。
 この『〈殺し〉の短歌史』では、ほかに見逃せない論もあるので、今月も触れてみる。
 森井マスミさんの『匿名的な「殺し」の時代へ』は森本平(知らなかった!)の短歌の分析から「『他人の死は死ねない』という当たり前の認識を無化する」ところに近代文学は成立しているとして、ぎょっ。俺みたいな駄目作家ばかりでなく、漱石も健三郎氏も然りであり、うーん、もしかしたら、差別のテーマも、内ゲバのテーマも、国家の営為といういわば文学に対する行動もそうではないかと痺れるほどに考えさせる。
 大野道夫さんの『六〇年・七〇年安保闘争のなかでの〈殺し〉の歌』では、あの浅間山荘でのドンパチの牽引役で死刑囚の坂口弘氏の歌ばかりでなく、東アジア反日武装戦線の大道寺将司氏のより短い俳句の対比による殺しの〝悔い〟の濃淡まで分析している。日本赤軍の重信房子氏の短歌分析もある。無念、彼女は刑が確定し、この文は読めないであろう……。
(作家・歌人)







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