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評者◆たかとう匡子
戦争を原体験で語り得る世代が最後の時間に立ち合っている節目――特集「戦後七十年」(『民主文学』)、特集「多喜二『党生活者』を戦後70年に読む」(『星灯』)
No.3221 ・ 2015年09月05日




■「民主文学」8月号(日本民主主義文学会)が特集「戦後七十年」を組んでいて、岩渕剛、能島龍三、原田敬一の鼎談「戦争と文学」からはいろんな思いに誘われた。というのも戦後七十年経ったから七十年かという、どう位置づけるかをめぐる思いである。私は敗戦の年を六歳で迎えた。この私などは戦争の体験をかすかに残している、やっと生き延びてきたギリギリの世代ということになるだろう。「戦後八十年」になったらもう私の世代はもっともっと少なくなっている。「戦後七十年」とはそんな戦争を原体験で語り得る世代が最後の時間に立ち合っている節目ではあるまいか。この認識は大事だと思う。鼎談では大岡昇平『俘虜記』、『野火』、『レイテ戦記』や石川達三『生きている兵隊』、黒島伝治『渦巻ける烏の群』などの文学作品を採りあげながら語られていて関心を持って読んだ。日本の文学は昭和の十五年戦争をめぐっては、すぐれた作品をたくさん残すと同時に、そのまま時代の証言たり得ている。たとえば『レイテ戦記』はどんな過酷な状況におかれても懸命にたたかい生きた兵士たちの人間の尊厳が描かれている。主題からのみ採りあげるのではなく、作品的価値こそが大事だろう。ここで語られている文学作品を改めて多くの人に読んでもらいたいという意味をこめて、紹介しておきたい。
 「星灯」第2号(星灯編集委員会)は特集「多喜二『党生活者』を戦後70年に読む」を組んでいる。佐藤三郎の評論「多喜二――最期の像」は八月に小林多喜二が殺されたときのことを当時の写真を掲載して論じている。写真一枚でも難しい問題があったと言いながら、思想弾圧のすさまじさを知る結果となった。とりわけ、二〇〇二年、市立小樽文学館の小林多喜二展示コーナーから、紀宮が同館を訪問する際の処置として「小林多喜二遺体写真」が撤去されたと書かれているが改めてショックだった。歴史は隠したり、偽造したりしてはいけない。これが戦後七十年のテーマだ。歴史をありのまま見るという点では、小林多喜二の遺体を囲んであつまった仲間たちの息を呑んだ悲痛な通夜の写真に、私自身も息を呑んだ。繰り返すようだが戦後七十年は戦争体験世代が最後の現役で、戦後八十年にはもうほとんどいないのだから、今年は過去を現在にどうつなぐかという最後の時間である。大切にしたい。
 「同時代」第3次第38号(黒の会)は「無限と有限」を特集している。小野田潮「内なる有限」は典型的な心境小説風のエッセイとして読んだ。心の内をワンカットで語るその切れ味がシャープ。このワンカットの語り口に魅かれた。そこが逆にオーバーな気もするがエッセイというより作品として成り立っており興味ぶかく読んだ。
 「文芸復興」第30号(文芸復興社)坂本満津夫「小説家・瀬戸内寂聴――『死に支度』に触発されて」は面白かった。普通世間でいう追っかけで、寂聴の作品も寂聴について書かれたものすべて、何でも読んでいるという。癪だけど物書きのはしくれとしてはこんな人がいたら最高だ。仲間から「わき見運転の常習」と揶揄されて喜んでいる私なのだがと、自分から言うようにあっちこっち行って、寂聴を追いかけるようなかたちで書いていて、こんなことを書けるというのも同人誌の持ち味かもしれない。寂聴ファンにとってはいい参考になると思う。
 「樹林」第606号(大阪文学学校・葦書房)は通信教育部作品集。在校生の作品をチューターが選んで特集しているがエッセイ・ノンフィクションの部の阪下ひろ子「またらいねん ごぉじゃれのぉ」に注目した。福井の農家の出身らしく民族芸能の神事をとらえて丹念に丁寧に書かれていて、今日と溶け合ってリアリティがあり、印象深い一点となっている。「阪下さんは、新住民ながら温かい気持ちで祭に参加し、村人と触れあうなかに祭の力を発見している。意義深い作品になっている」と選んだ音谷健郎さんの批評の一部も紹介しておく。
 「1466日目――東日本大震災から四年目を詠む」(塔短歌会・東北)の斎藤雅也「古き家」を読んだが、東北の大震災は今もいろんな問題を孕んでいる。しかし書けばいいという問題ではない。事件に終わらせるのではなく、しっかりいつまでも現在時からとらえなおしていく必要がある。そういうことのなかでの「落ちぬやう本を押さふる紐あまたいつしか書架の模様となりぬ」、「やすらぎて寝息たてゐる子犬なれ地震の怖さは知らずともよし」は四十五年住んでいる家が対象らしいが、無事だったとはいえ、書架の本が落ちないように結んだ紐など現在時の時間がオーバーではなくさりげなく詠われている。また最近癒しのために飼い出した子犬についても災害の怖さがかえってリアリティを生んでいる。
 「漣」は創刊号(漣の会)。岩崎芳生の「父の死の頃」は典型的な私小説。職人の父が癌で死ぬ。その間の自分の恋愛を重層させながら語られる。具体的な生活の現場に即して大きなウエーブを作るわけではないが、そのさざなみが小気味よい。私小説は自分の体験を押しつけたらしんど
い。文体もよく、平凡なことを書きながら平凡ななかに特徴をみつけてそこが作品を成立させる。いいと思った。
(詩人)

▼民主文学 〒170―0005世田谷区南大塚2―29―9 サンレックス202 日本民主主義文学会
▼星灯 〒182―0035調布市上石原3―54―3―210北村隆志方 星灯編集委員会
▼同時代 〒171―0044豊島区千早1―20―13  富田裕方 黒の会
▼文芸復興 〒169―0074新宿区北新宿2―6―29―415 堀江朋子方 文芸復興社
▼樹林 〒542―0012大阪市中央区谷町7―2―2―305(新谷町第一ビル3F)大阪文学学校・葦書房内 大阪文学学校事務局
▼1466日目 〒989―6103大崎市古川江合寿町1―3―39―201 梶原さい子方 塔短歌会・東北
▼漣 424―0878静岡市清水町御門台28―8 福井方 河原治夫方 漣の会
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