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評者◆石黒健治
人はなぜ写真を撮るのか?――スマホカメラというペットを連れて
No.3304 ・ 2017年05月27日




■前回の夢のつづき。
 美術館の壁の前で、かぎ鼻の修道僧が演説をはじめ、激しく貪欲淫乱の世相を糾弾し、清廉清貧を訴えて、「虚栄の焼却を!」と叫ぶ。
 民衆が続々と集まり、傲慢強欲の教皇をののしりながら、古今の名作・駄作を壁から引きはがして火をつけた。さらにメディチ家から奪った金銀宝石、家具骨董を火に放り込む。ひときわ華麗な「ヴィーナスの誕生」を投げ込んでいるのは、ボッティチェリだ。
 火が最高に燃えさかったとき、民衆は、突然、あのかぎ鼻の修道僧を炎の上に吊す。
 どよめきと歓声を背に、着飾った教皇がすっと消えた。宝石をちりばめた純白の法衣を翻して。――その一部始終をひたすら見つめ、撮影しているカメラマンがいる。
 夢から覚めて……。
 まず名前を決めて、整理をしなければならない。紛らわしい写真の情況のことだ。なにしろ1日に1兆回のカシャだから、たいへんだが1つ1つ撮影の動機、目的、何をどう撮ったかをたずねて、クリアにしていこう。
 すでに窓派と鏡派については紹介した。自身の内部の声を写す鏡派は、1兆回のうち10万回ぐらいだろうか。社会の状況を撮る窓派は、10倍の100万回か。ファッションやコマーシャル写真、カタログなどの商品を撮るカシャは1千万回か。七五三や卒業式、結婚式なども同じくらいか。
 とすると残りの1日9999億7890万回は誰が何処でどのようにカシャしているのだろう。
 4月28日から5月6日まで、渋谷ヒカリエで「東京カメラ部2017写真展」が開かれた。フェイスブックなどで写真の投稿サイトを運営している東京カメラ部が、昨年1年間に投稿された約190万の作品の中から、10点を選んだ、その発表展である(2012年展からの作品その他を加えて、1200点を展示するというから、世界に類のない空前の大写真展だ)。
 190万から10点を選ぶのは至難の業に思える。超人的審査員は誰か? 答えは簡単明瞭。投稿サイトを「ご覧になった延べ約4億5千万の人が〈いいね!〉、コメント、シェアをした結果、選ばれた10作品」で、それらは「日本に住んでいる人が、見たかった、好きだった写真」である(webサイト運営代表者)。
 それらの写真は、湖面に映る逆さ富士だったり、ピンクのボケを背景に真っ赤な紅葉、雪景色の中を走る列車、東山魁夷風の湖畔の情景などである。誰にも文句を言わせない、日本人固有の、4億5千万の美意識が審査員だった!
 東京カメラ部の分室サイトは3つ、「NEKOくらぶ」「花の写真館」「おいしい写真教室」である。猫と花と料理。これにトンボと蝶、さらに自撮りを加えれば、これが9999億7890万回の中身のすべてだろう。
 アマチュアリズムが支えてきた日本の写真は、ホビー化し、スマホカメラというペットを手に入れた。いつもペットを連れ歩き、マーキングかスタンプラリーか、自撮りのコレクションか、カシャは今日もうなりを上げている。
 現実は厳しい。
(写真家)







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