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評者◆小嵐九八郎
余裕の中で核がぎりりとしている――大田美和著『大田美和の本』(本体二二〇〇円・北冬舎)
No.3171 ・ 2014年08月16日




■限りなく自称に近いが、歌人である。作りはじめたきっかけは、三十代後半、懲役とはよく言った、石油ストーブが地震時に消える部品を夏場の鉄板の屋根の下で沢山作らされ、単純さと暑さに軟弱派は参り、詩が欲しくなったからだ。自由律の詩は、冒険的な言葉は好ましいが、闘う前から、闘いと思想を斜めから切り、冷笑するのが差し入れの詩誌で分かり、やーめた。俳句から、工場で“勤務”している最中に始めた。退屈を凌ぐには、かなり快適だった。が、党生活者はあれこれに縛られ、そもそも饐えるばかりのイデオロギーとは知ってきていて、泣きを入れたくなり、七七をどうしても必要となり、短歌を心の中で口遊むようになった。
 そのうち歌誌を読みだし、へえ、道浦母都子氏とか福島泰樹氏とかが、きちんと闘いに真向う歌を作り、しかも、それが受け入れられている事実に驚き、実に嬉しくなった。
 娑婆に出て不惑寸前、いや、四十代になっていたか、短歌結社『未来』に入った。主宰は、亡き近藤芳美氏。選歌欄は、今は歌会始めの選者の岡井隆氏。近藤氏が、ある権威に対しては強いけど、客観視過ぎて好きになれぬ裁判官ふうとか、歌壇全体への天皇制のどでかい影響力とかはまるで知らなかった――言い訳じみているけど、我らのかつての新左翼の狭い視野の一つだった。
 その『未来』に、当方とは時期がずれて直に会ったことはないはずだが、所属している歌人、大学の先生の『大田美和の本』が出版され、読んだ。すみません、ついついエッセイから目を通したのだけど、これが、まことに余裕の中で核がぎりりとしている。旧姓で通しているのにパスポートを戸籍名でしか取れない不条理の突破の話、歌会始めの選者に選ばれたことへの批判より「数名の歌人がこの制度に組み込まれることで、歌人一般あるいは短歌という文学形式がどのように位置づけされているか」の問いと、黄金律に酔ってばかりの俺も冷やり。《犇きて海に墜ちゆくペンギンの仲良しということ無惨かな》この書の大田氏の一首だ。むろん、詩的には、もっと楽しい歌がある。







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