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評者◆たかとう匡子
黒田喜夫にさかのぼる――作田教子(「飢え、乾き、あるいは渇望」『新しい天使のための…』)寺山あきに、母のぬくもりのノスタルジア(「ぬくぬく」『文芸誌O』)
No.2960 ・ 2010年04月03日




 今月は「俳句雑誌塵風」第2号(塵風句会)が「風景」を、「スーハ」第6号(よこしおんクラブ)が「私の街角」を特集しているので、そこから入る。前者の「風景」は、常に風景とは過去に追いやられるものだという自覚をともなう。その過去の風景を現在によみがえらせようとするところに意味があり、リアリティを追求する。そこで私と同世代だからいうのではないが、「塵風」のばあいは戦後の、とりわけ七〇年代に対する記憶の風景が中心という印象を持った。でもここで止まってしまったら物足りない。そのなかにあって、山口東人「地下室のメロディ~水路の風景をめぐって~」は、風景という概念を越えて、タテ軸に江戸(=時間)、ヨコ軸にオランダ(=地理)というふうに交差させて風景の意味を著しく拡大させた。「ヨルダーン地区の運河に沿って昔の白壁の家が並ぶ。」といった一文からは運河にヨルダーンの風景が映ったかどうかはわからないが、私の中ではそういうふうに風景が見えてきて、この日本語の風景論は面白かった。本来、風景論とはこうあるべきだと思う。それに対して「スーハ」の「街角」は生活の現在時としての風景を追求する。実際、風景のリアリティというのは突き詰めていけば「街角」とか「路地裏」など、さりげないところにこそ味があるのだ。そんなことをこの特集で感じた。安川奈緒「サトイモの葉の上に――兵庫県神戸市兵庫区新開地」は、地元の私から見ればよく知っているところだけに自然と目が向く。点々とする街角に佇むかとおもえば闊歩し、この新開地印象記、なかなか面白い。詩人らしい目配りが利いて「都会に生えた巨大サトイモの葉の上に来てしまったような、離陸してホバリングする広場にいるような」など、おやおやととても新鮮な気分になった。こんなふうに街角は風景の切断面として示されるとリアリティを増す。ノスタルジアをはぎ取られるという意味ではさすがに詩の雑誌の特集だと思った。
 「新しい天使のための…」第6号(エッセンティアの会)の作田教子「飢え、乾き、あるいは渇望(一)」は、始まったばかりの詩論だが、興味ぶかく読んだ。黒田喜夫といえば今ではもうほとんど語られることはないが、私の中では大事な詩人で、日本では初めて詩論として「飢餓論」を書いた人。私は現在こそ、飢えとか渇望といった問題は大事だと思うし、ここでもう一度黒田喜夫までさかのぼって、詩論として(言語として)とらえなおす必要はたしかにあると思う。それもこういう比較的若い女性が書き始めていくということで、私はじっくり見守りたい。
 「沈黙」第39号の宮内憲夫「一本足の魂」は抒情詩。この詩人の詩はたくさん読んできただけに、かつてのフォルムが変わったような気がした。四行一連の組み立てもそうだが、ソネット風のリズムといい、デスペレートな気配といい、なかなかおしゃれな作品になっている。フォームを固定させて小気味よく、過剰な詩的用語を使わないぶん、私には気持ちよく読めた。
 「ひょうたん」第40号(ひょうたん倶楽部)の水嶋きょうこの「旅立ち(他二篇)」の一篇「犬」の冒頭はこんなふうに始まる。「死んだ犬が遊びに来た。楽しそうに笑って舌を出している」。こういう詩はどういうスタイルの詩といっていいだろうか。私は感覚詩と名付けておきたい。詩人は舌に関心を持つ。体感からはじまる詩は珍しいと思うが、そこから参入していく。私も詩を書くひとりとして「舌」の生かし方など面白い手法だと思った。
 「文芸誌O」第45号(文芸誌Oの会)の寺山あきの「ぬくぬく」は、かつて日本の田舎によくあった家庭事情を入りくませた小説。七歳の孫の結とふたりで暮らす祖母のソエは奉公先のおじいさんとのあいだで結の父親を生んだ。父親はその出生に腹を立て何かと反抗的で、学校を出るころ家出して、世帯を持ったことも知らせなかった。しかし結のお産のとき妻が死んだため、電報が来て、ソエは駆けつけて引き取って帰った。こんな事情のなかで祖母が急死する。小さい挿話を対話のなかでかさねていく手法で、七歳の女の子のけなげさ、祖母との和合を中心に、私はある種の母のぬくもりのようなノスタルジアを感じた。今こそ忘れてはならない原点のような気がする。終刊号ということだが惜しまれてならない。
 「海峡」第23号の瀬川笙子「沈まぬ錨」は、一度は長男に農業を託して故郷を出、都会で結婚もした主人公が病気で会社に辞表をだし、故郷にもどって生活をたてなおす話。近年の私たちのなかの地方は故郷喪失とか過疎化、ひいては限界集落とかばかりが強調されて目立つが、故郷へ行きつ戻りつするにはそれなりに夫婦間の葛藤、感情の起伏が複雑に交錯する。ありふれた人間模様、単なる私生活とだけでは片づけられない。そんなふうに揺さぶられる故郷が小さな物語にうまく構成されている。丹念に筆をのばしてどこかじーんとくる、さりげないところにリアリティを感じさせる。地味な生活をじっくり書くこと、ここにも同人誌の存在の意味があると思う。
 「詩論へ」第2号(首都大学東京 現代詩センター)は北川透、藤井貞和、福間健二、瀬尾育生、四人の詩論満載の雑誌だ。こういう圧倒的な重量感あふれる雑誌が私も読めるようになってうれしい。
(詩人)







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