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評者◆小嵐九八郎
読み手がクールに自己を分析できる
コンプレックス文化論
武田砂鉄
No.3328 ・ 2017年11月25日




■コンプレックスというと、普通は劣等感とか、フロイトの説からくる意識の下あたりに抑圧されているこだわりということになるのだろう。太宰治は青森の片田舎から二十歳ぐらいで東京に出てきて、ラジオが珍しかった時代で土着語には悩んだはず。その悶えゆえに東京語の凄まじい“美”をものにし得たと思う。寺山修司も一八歳で上京し、ここいらの格闘はあったはずだが、死の前には堂堂とズーズー弁で当たらぬ競馬予想をテレビでやっていたので、どうなのか。《ふるさとの訛りなくし友といてモカ珈琲はかくまでにがし》という歌を作っている。
 当方は、秋田の北の外れから七歳の時に工場街の川崎に出てきたが、実にしんどかった。ただ、この苦しい時にゲバルトの訓練をして舐めた奴らを一年半後に黙らせた。悩みが早く終わったせいか、陸な文章も歌も作れない。中途半端に暴力を信じてしまって、学生運動の延長戦をやり過ぎた。
 コンプレックスを自意識の目醒める少年時代に抱えるのか、多感な青年時代に抱えるのかでは違うだろうし、個人ではなく集団になるとどうなるのかなど考えると歴史、民族、文化のかなりの鍵になる気がしないでもない。
 そこで近頃出版された『コンプレックス文化論』(本体1500円、文藝春秋)を読んだ。著者は武田砂鉄さんで、「砂鉄」はペン・ネームだろうが磁石に吸いつく浜の砂の鉄分の頼りないのに要に思いを寄せる雰囲気とか、蹉跌を隠しているようで味がある。
 へえ、と考えたのは現代のコンプレックスは俺も持つ「背が低い」とか「ハゲ」だけでなく「下戸」「(瞼の)一重」「親が金持ち」「実家暮らし」などという項目もあり、時代によって変遷するということだ。そして、そのコンプレックスを抱く本人にインタビューして回答を得て、読み手がクールに自己を分析できるようになっている。ここ、大切である。武田砂鉄さんは、方針じみたことは強いて記していない。ここも、とても良い。
 その上で、七十三歳の大老人は、コンプレックスとの苦闘、居直り、同居は“宝もの”と主張したい。







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