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評者◆編集部
こどもの本棚
No.3329 ・ 2017年12月02日
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■光のいのちをたたえる宝珠と子兎の物語
▼貝の火 ▼宮沢賢治 作/おくはらゆめ 絵 宮沢賢治の童話には、まだまだ知られていない作品があります。この『貝の火』も、そんなひとつといえるかもしれません。知る人ぞ知る不思議な、それでいて美しくも怖くもある、ひとつの宝珠をめぐる物語です。きれいな宝物は、吉兆が転換して災いにもなる。ここにはそんなメッセージが込められているのかもしれません。貝の火とは、この宝珠の名前のことです。 主人公は子兎のホモイです。光に満ち、花々が咲き乱れ、芳香ただよう野原につつまれて、ホモイは「川の波の上で芸当をしているようだぞ」とうれしくなりました。そして、小さな流れの岸まで来たときのことです。 やせたひばりの子どもが、川に流されているのを見つけました。ホモイは勇敢にも水のなかに飛び込んで、溺れているひばりの子を助けあげました。ホモイはもう疲れはて、よろよろです。一目散に家へ帰ったものの、ひどい熱病にかかって、たおれてしまいました。お父さんとお母さんの看病と、兎のお医者さんのおかげで、ようやく回復したのは、鈴蘭に青い実ができた頃といいますから、季節は夏から秋へと移ろいすぎたのかもしれません。 そして雲のない、静かなある夜のこと、ホモイが空を見ていると、ひばりの親子が飛んできました。あのとき助けた子どもと、そのお母さんでした。ひばりはお礼にと、赤く光る宝珠をホモイに贈るために来たのでした。 お父さんは、美しく光る宝珠を見ていいました。「これは有名な貝の火という宝物だ。これは大変な玉だぞ。これをこのまま一章満足に持っている事のできたものは今までに鳥に二人魚に一人あっただけという話だ。お前はよく気を付けて光をなくさないようにするんだぞ」。 光をなくさないように……。意味深長なことばです。それからというもの、ホモイは馬や狐やむぐらと遭遇して、いろいろやりとりがくりひろげられます。ところどころ、お父さんが出てきて、ホモイをとてもきびしくしかりますが、貝の火を気にして、心配していたのです。そして、光をなくすかもしれないという心配は、ついに現実のものとなります。宝珠がくだけて、ホモイの身に災いがふりかかるのです。 貝の火の色彩変化は、まるで光のいのちのように移ろいます。賢治はこの童話にどのような意味をこめたのでしょうか。「こんなことはどこにもあるのだ。それをよくわかったお前は、一番さいわいなのだ」というお父さんの言葉が、箴言のように響きます。(10・17刊、26cm×25cm六四頁・本体一八〇〇円・ミキハウス) ■『古事記』はこんなにもおもしろい ▼絵物語 古事記 ▼富安陽子 文/山村浩二 絵/三浦佑之 監修 日本最古の歴史書『古事記』は全3巻からなり、天地のはじまりから推古天皇の時代まで、神話や伝説など様々な出来事によって綴られています。本書は、そのうちの上巻部分、神々が織りなす天地のはじまりの神話を、誰にでも手に取りやすい絵物語として仕立てたものです。すらすらと読みやすく無駄のない富安陽子による文章、そしてすべてのページ(!)に山村浩二の挿画がはいっているからなのか、イザナキ、イザナミといったおなじみの神から、アマテラス、スサノオ、オオクニヌシなどの神々の物語にすんなりと入っていくことができます。突飛なおはなしを好む子供だけでなく、神話というだけでちょっと身構えてしまうような大人でもおもしろく読むことができます。『古事記』って、こんなにも創造力に富んだおもしろい物語だったのかと、物語の楽しさ、絵によって語られる楽しさをも感じることのできる新しい『古事記』が誕生しました。(12月刊、A5変形判二五六頁・本体一六〇〇円・偕成社) ■きよしこの夜 流れ星が光る ▼テオのふしぎなクリスマス ▼キャサリン・ランデル 文/エミリー・サットン 絵/越智典子 訳 作者のキャサリン・ランデルはイギリス生まれ、二〇一一年にデビューしたまだ三〇歳の新進気鋭の児童文学作家ですが、一昨年にはボストングローブ・ホーンブック賞を受賞し、大活躍しています。そんなランデルが、クリスマスの童話『テオのふしぎなクリスマス』を書きました。 クリスマス・イブだというのに、テオ少年のお父さんとお母さんは仕事で、テオはお留守番です。ベビーシッターはすっかり居眠り。しかたがないので、テオは一人でクリスマスツリーの飾りつけをしました。 窓を眺めると、あ、流れ星!テオは思わず目をとじ、両手のこぶしをにぎりしめ、つま先を十字に重ねて舌をかみました。「願いごとをするときは、心臓のありったけでねがわなくちゃいけない」と、お父さんから教えられていたので、そのとおりに、とびきり力をこめてお願いします。「いっしょにいてください。ひとりぼっちじゃなく、いられますように」。皮膚がチクチク、頭がクラクラするほど願いごとをした、そのときです。 さっき飾りつけをしたクリスマスツリーが、さわさわと音をたてたかとおもうと、枝にとめてあったブリキの兵隊が、輪をはずして下りてくるではありませんか。天使も飛ぼうとします。木馬もひもをかみちぎろうとしますが、うまくいかず、「ねえねえ、ぼくをここから、はずしてくれる?」とテオを呼びます。 なんとクリスマスツリーが揺れて、飾りが動き出したのでした。テオは、ツリーの木馬や天使や兵隊たちに誘われて、すこし行ったところに住んでいる、ピアノの先生のグッドイヤーさんを訪ねることになりました。クリスマス・イブの町に歩みだす、不思議な大冒険の始まりです。 テオの冒険譚は、エミリー・サットンのやさしい絵に彩られて、クリスマス気分を盛り上げます。きよしこの夜、子どもと一緒に開いて読みたくなる絵本です。(11月刊、24・6㎝×18・9㎝六四頁・本体一五〇〇円・ゴブリン書房) ■恐竜だってプレゼントがほしい ▼きょうりゅうたちのクリスマス ▼ジェイン・ヨーレン 文/マーク・ティーグ 絵/なかがわ ちひろ 訳 「せかいじゅうの かわいい きょうりゅうたちが たのしい クリスマスを すごせますように」 この絵本のエピグラフには、作者と画家のことばがかかげられています。恐竜たちのクリスマスって、いったいどんなものなのでしょう。興味がわいてきますよね。 恐竜だって、クリスマスが楽しみでしかたがありません。うきうき、そわそわ、もう待ちきれない気分でいっぱいです。部屋のなかで大騒ぎ、全身で喜びを表しています。 いつ、サンタさんがやってくるのかな。寝ないでずっと見張っていようかな。階段のかげから、暖炉のほうをこっそりうかがっている様子には、思わず笑みがこぼれます。もう気が気でないという雰囲気が絵本に満ちています。 恐竜はやはり荒っぽくて、きれいな箱を見つけたら、サンタさんのプレゼントだと早とちりして、かたっぱしから開けてしまいます。ツリーをおもちゃにしたり、ゆすったり、もうじっとしていられません。でも、クリスマスの歌は、みんなでいっしょに歌います。 と、ひととおりのことをして、さて、そろそろ眠くなってきました。恐竜たちはすやすやと眠ってしまいます。 と、そのときです。誰かが大きな袋をかかえて、姿を現しました。ところがどうでしょう。おまちかねの人が来たというのに、当の恐竜は白河夜船。なんとも愉快なクリスマスですね。(11・3刊、31㎝×23㎝三二頁・一四〇〇円・小峰書店) ■ネズミたちの物語は社会と歴史の縮図 ▼ようこそロイドホテルへ ▼野坂悦子 作/牡丹靖佳 画 一〇〇年ほど前のお話です。オランダの港町アムステルダムに、立派な建物のロイドホテルがありました。旅するネズミのピープは、世界の海をわたってきたすえに、この港町にたどりつき、このホテルをすみかとします。 そこで出会ったのは、人形をだきしめたハツカネズミの女の子カーチャです。カーチャはロシアから、人間の家族といっしょに列車に乗ってやってきました。 ロイドホテルで、ふたりは結婚式をあげます。近くにすむ動物たちも集まってきて、ホテルをあげてのお祝いがおこなわれました。 ホテルはかれらのすみかであると同時に、人間の出会いと別れ、社会と歴史を映し出す舞台です。戦争があり、ナチスの占領支配があり、ユダヤ人の移送と虐殺が行われました。ピープとカーチャはロイドホテルで、その目撃者となるのでした。 本書の作者はロイドホテルに、未来につながる「まなざし」を感じると書いています。ネズミたちのまなざしは、人間の未来に向けられているかのようです。この物語に人間の生と死、そして再生の縮図を見る思いがします。(10・20刊、B4変型判三四頁・本体一六〇〇円・玉川大学出版部) ■数え方の世界がぐんと広がる ▼数え方のえほん ▼髙野紀子 作 ものの数え方は、実に難しいです。大人でもよくわからない数え方があって、日本語の世界の広さに驚いてしまいます。この絵本は、数の数え方を図解してくれる、実に便利かつ楽しい一冊です。 たとえば牛は一頭と数えるのに、羊は一匹です。それから、ホットケーキは一枚、二枚と数えますが、重ねたら一組になります。食パンは一斤、パウンドケーキは一本となります。ボートは一艘、大型船は一隻。バナナは一房、ちぎると一本。実に多様ですね。 とにかく教えられることの多い、知ることの喜びと不思議に満ちた一冊です。数え方の世界がぐんと広がります。(10・30刊、20・8㎝×21・6㎝四八頁・本体一四〇〇円・あすなろ書房) |
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