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評者◆殿島三紀
虫の目と鳥の目が共存するハンガリー映画――コーネル・ムンドルッツォ監督『ジュピターズ・ムーン』
No.3337 ・ 2018年02月03日




■『ユダヤ人を救った動物園』『ヒトラーに屈しなかった国王』『アランフエスの麗しき日々』『わたしは、幸福(フェリシテ)』等を観た。
 『ユダヤ人を救った動物園』。ニキ・カーロ監督作品。1939年ワルシャワに侵攻したドイツに接収された動物園が舞台。飼育動物が次々と殺されていく中で、自らの生命を危険に曝し、ユダヤ人300人を動物園の地下に匿ったワルシャワ動物園経営者夫婦の話。実話である。
 『ヒトラーに屈しなかった国王』。監督はノルウェーのエリック・ポッペ。1940年、ナチスに降伏を迫られたノルウェー国王ホーコン7世が一つの決断を下すまでの運命の3日間を描いた映画。ノルウェー本国では3週連続1位。その後もロングランを続け、国民の7人に1人が観るという社会現象的な大ヒットを記録。
 『アランフエスの麗しき日々』。ヴィム・ヴェンダース監督最新作。『ベルリン・天使の詩』以来30年ぶりにペーター・ハントケと組んだ。二人の男女がパリを見下ろす屋敷の庭で、子ども時代の思い出や男と女の違い等を、とりとめもなく話し続ける。監督は「100%思いのままに撮った生涯で初めての映画」と語る。舞台となった屋敷はベル・エポックを代表する大女優サラ・ベルナールの邸宅。パリの夏が香り立つ作品だ。
 『わたしは、幸福(フェリシテ)』。監督・脚本はアラン・ゴミス。FESPACO映画祭で史上初めて2度の最高賞、ベルリン国際映画祭でも銀熊賞を受賞。コンゴ民主共和国――植民地、独裁政権、戦争、混乱というハードな100年間を経験した国が舞台でありながら、少しも政治的な色彩はなく、シンガーとして生きるシングルマザーが主人公。先入観を拭い去った等身大のアフリカが見えてくる。
 今回、紹介するのは『ジュピターズ・ムーン』。監督はハンガリー出身のコーネル・ムンドルッツォ。本作のキャッチフレーズは“カンヌが熱狂したSFエンターテインメント”とある。その言葉でまず連想するのはやはりハリウッド映画のあの派手派手しさ。ところが、本作にはエンターテインメントという言葉の持つ軽々しい雰囲気はなく、優雅で幻想的な空中飛翔シーンに一撃される。また難民問題を描きつつも社会的政治的には振れていかない構成。うなるしかない。
 物語は、ハンガリーの国境へ向けて多くの難民たちが走り込んでくる緊張感に満ちたシーンから始まる。父親と二人でシリアからやってきた少年が主人公である。国境に待ち受ける警備隊から逃れるため、必死に走る少年が隊員の撃った銃弾に倒れる。そして、そこに展開したのは、夢か奇跡か――。
 難民を銃撃するのはもちろん違法行為だ。違法警備隊員、難民から賄賂をとって金儲けをする悪徳医師。夢のような空中浮遊。ドロドロの現実と天使のような難民少年の姿。重層的に重なるエピソードをつないだ底に流れるのは医師と少年の友情だ。美しい映画である。空を舞う少年の目から見た街の俯瞰図は常に黄昏時のようであり、往年のヨーロッパ映画を思わせる。それはハンガリーというヨーロッパの辺境を舞台に撮影されたからか。建物の内部も、俯瞰した都市の光景も、古き良きヨーロッパの顔と雰囲気をまとっている。ただひとつ違うのは、その風景の中に多くの難民がいるということだろう。
 ジュピターズ・ムーン=木星の衛星。現在、木星には69の衛星が発見されている。その内、ガリレオ・ガリレイによって発見された衛星「エウロパ」は厚い氷に覆われているが、その下には塩水が流れ、生命体の存在も示唆されるという。
 エウロパ(=ヨーロッパ)の氷の下に潜むかもしれない新たな希望を、現在と今後のヨーロッパ、そして、世界の中に期待したい。現実の混沌の中をゆるやかに浮遊する少年に救いを見る。
(フリーライター)







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