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評者◆殿島三紀
アメリカが立ち止まった時代――ギレルモ・デル・トロ監督『シェイプ・オブ・ウォーター』
No.3342 ・ 2018年03月10日




■『ゴーギャン~タヒチ、楽園への旅~』『スリー・ビルボード』『ウイスキーと2人の花嫁』『ザ・シークレットマン』等を観た。
 『ゴーギャン~タヒチ、楽園への旅~』。株式仲介人として生活し、フランス人の妻との間に多くの子をなしながらも画家を志したゴーギャン。彼は近代主義全盛のパリを捨てタヒチに。本作は生誕170年を記念して作られた。エドゥアルド・デルック監督はタヒチ生活を中心にゴーギャンの懊悩を描き出す。ヴァンサン・カッセルのゴーギャンが良い。
 『スリー・ビルボード』。マーティン・マクドナー監督・脚本・製作。アメリカの田舎町で起きた強姦殺人事件で一向に捜査の進まない状況に業を煮やした被害者の母親が警察署長相手に喧嘩を売る。道路脇に立つ3枚の看板に署長を非難する広告を出したのだ。母親は変人、署長は町民から敬愛される好人物――戯曲家出身のマクドナー監督の脚本が凄い。
 『ウイスキーと2人の花嫁』。ギリーズ・マッキノン監督作品。第2次世界大戦中、ロンドンへの空襲が激しさを増し、ナチスが迫りくる中、ウイスキーの配給が止まってしまったスコットランドの小島。島民にとっては命の水が絶たれたも同然。ある夜、島の沖合に大量のウイスキーを積んだ貨物船が座礁したから、さあ大変……。実話だ。
 『ザ・シークレットマン』。監督・脚本・製作はピーター・ランデズマン。ウォーターゲート事件をテーマにした『大統領の陰謀』(1976)はワシントン・ポスト紙の記者が主人公だったが、本作は事件の真相を暴き、ニクソンを失脚させる情報を彼らに提供した人物が主人公。それが当時FBIのNo.2、マーク・フェルト副長官だった。FBIの重要人物がなぜ大統領を失墜させる情報提供者になったか……。トランプ大統領のロシア疑惑が囁かれる昨今、気になる一本だ。
 今回紹介するのは『シェイプ・オブ・ウォーター』。不思議なタイトルだが、水に関する音や記憶には妙にそそるものがある。温泉旅館の大浴場、ひと気のない時間帯。木桶を水栓の下に置いた時のからーんとした反響音。良いなぁ。監督はダークファンタジーの鬼才、ギレルモ・デル・トロ。2017年ベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞し、アカデミー賞最有力との呼び声も高いファンタジー・ロマンスである。つまりは、恋物語だが、普通の恋ではなく、人間と異生物との恋物語だ。
 「ウィアード・テールズ」という電話帳みたいに分厚いアメリカのパルプマガジンに夢中になっていた時期がある。1923年に創刊された怪奇小説・ファンタジー・SFの専門誌で、分厚いけれど、藁半紙だから軽いし、ついでに中身も軽いのでいくらだって読めてしまう。ラブクラフトなどの有名怪奇作家も擁していた。なぜ、「ウィアード・テールズ」か、というと本作にはその匂いがあるから。ギレルモ・デル・トロも絶対にファンだったと思う。ホラーを暗い映画館で観るのは怖すぎてイヤだが、ダークファンタジーなら映画館の暗さはちょうど良い。なんとも蠱惑的である。
 映画の舞台も冷戦下の1962年という薄暗い時代。トワイライトゾーンというべき青と暗闇が溶け合うような空間、アメリカ政府の機密機関「航空宇宙研究センター」の地下で清掃員として働き、映画館の2階に暮らす唖者のイライザが主人公。彼女が研究センターに連れ込まれた異生物と恋に落ちたことから、この映画は不思議な展開をする。1962年はソ連との核戦争への恐れが沸点に達した時代だったし、冷戦、宇宙開発競争、公民権運動の時代。監督も言う。「アメリカが立ち止まった時代だ。人種差別や不平等があり、ケネディ大統領が殺された。恋愛にはひどい時代だが、それでも愛は生まれる」。
 水の形というのは愛の形だったか。
(フリーライター)







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