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評者◆伊達政保
この本を高校や大学一般教養の教科書にするベきだ
戦中史
福井紳一
No.3345 ・ 2018年03月31日




■そうだ、こういう本が欲しかったのだ。福井紳一著『戦中史』(KADOKAWA)。満州事変から敗戦までを概観し、それを近現代の日本史の中に位置付けるという本が。著者は前者を狭義の「戦中史」、後者を広義の「戦中史」と捉えて展開しようとしている。安倍政権による「特定秘密保護法」「共謀罪」「安全保障関連法(いわゆる戦争法)」の成立は、現在がもはや「戦後」ではなく「戦中」の様相を呈していると言っても過言ではない。いわんや、東京オリンピックを契機に憲法改正(悪)を行い、オリンピックを国威発揚の場として捉えるというに至っては、もはや戦前の二の舞いと言うベきでしかない。
 おっと、戦中史を反芻するうちに言葉遣いまでおかしくなってきた。ともあれ、敗戦後それまでの皇国史観(薩長史観)をGHQにより全否定された日本はその批判的検証を怠り、一億総懺悔という方法で近現代史を見ないようにしてきた。中高教育においても授業時間がないとの理由づけで、せいぜい明治維新(それも薩長史観の)までしか教えてこなかった。こうしたことによる近現代の歴史的無知状況を背景に反動主義的歴史観が巻き返しを始め、ついには安倍政権下において皇国史観をも凌駕する新自由主義的歴史観(ネトウヨ歴史観)が跳梁践扈するようになってしまった。
 本書は学者の書いた研究書ではない。予備校講師として教えている著者の語り口は、現在のこうした歴史認識状況に対し、近現代史を分かりやすく分析・考察するものとなっている。だからといって本書を軽んじてはならないのだ。たとえ近現代史や戦中史を知っていたとしても、もう一度頭の中で整理するために、本書を読み返す必要があるだろう。オイラこの本を高校や大学一般教養の教科書にするベきだと考える。
 本書では明治維新以降の政治と軍事を近代天皇制と天皇機関説、軍部大臣現役武官制によって考察している。また日本の近代経済史は、戦争を通じて発展してきた日本資本主義発達史であり、戦後においても同様であったことを分析している。思想史としての日本近代史の考察も面白い。またこれだけで一書をなして欲しいのが満州とアジア主義だ。橘樸、尾崎秀実、石原莞爾を貫く「左翼アジア主義」。これについて松浦正孝が『「大東亜戦争」はなぜ起きたのか』(名古屋大学出版会)で否定的見解を示していたが、著者との論争を期待する。ただ「左翼アジア主義」による大東亜共栄圏の逆流を標榜して、70年代にミクロネシア独立運動に荷担した平岡正明、布川徹郎らによる「汎アジア環太平洋行動委員会(PAPPAC)」があったことを忘れちゃ困るのだ。







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