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評者◆小嵐九八郎
よくぞこの短い文にと感嘆――春風亭一之輔著『いちのすけのまくら』(本体一五〇〇円、朝日新聞出版)
No.3349 ・ 2018年04月28日




■かなり近しい人間から「あなたの小説の出出しは、回りくどい。てれんこ、てれんこ。しかも、気が利かなくて、中身に繋がらない。これ、読んでみたら」と、二人で春の気を楽しもうと川崎のJRのローカル線の鉄路の脇でノビルを摘んだ後に言われ、本を渡された。
 むろん、俺も、売れない作家に居直っているわけではなく、本が出る度に反省をしているのだが、小説の冒頭の“言いわけ”癖は治らない。この原因は、たぶん、当方の学生運動の延長戦にあると推測している。一九六六~六九年の、あまりに未熟にして無知だったとしても学生運動の熱い時には「突破するぞおっ」、「よおっし」、「異議ナーシ」、「ナンセーンス」と、それに小さなゲバルトでものごとは進んだけれど、70年代に入ると命懸けの党派闘争、通称は内ゲバが盛んとなり、自らの孤立を知り、組織外の人人に釈明したり、あれこれを訴えたりする間に、前提への過ぎた拘りに心身ともに染められたらしい。
 近しい人間がくれたのは『いちのすけのまくら』(本体1500円、朝日新聞出版)だ。著者は、春風亭一之輔さんで、寄席を中心にTV、ラジオで頑張っているかなり実力のあるごつい落語家だ。オレのバイト先の私大の芸術学部を出ていて、一九七八年生まれ。ここの学部の学生は、今や、『朝日』『毎日』『讀賣』の新聞は死語で、ヤフー・ニュースしか見ていないのがほとんどだ。が、時折、突出して個性的というか発想の枠が常識外で新鮮なのが出る。当方のゼミでも谷潤の『刺青』の評論を落語調のシナリオで書いてきたり、落語の実演で『新訳聖書』の解説をする学生がいた。落語研究会に属していた。
 いけねい。また、回りくどくなっちまった。タイトルの中の『――まくら』は落語の本題に入る前のフリートークである。へぼ小説家には真に役立った。ま、もう遅いけれど。よくぞこの短い文にと感嘆するが『まくら』自身に力と次への期待がある。生活、つまり金稼ぎや子育てや掃除などと、芸の切実な対峙があり、技術的にも、引っくり返し、自虐、抑えた他虐と、時に泣いてしまう。暇を探しに探し、是非是非、一之輔さん、長い小説を。







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