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評者◆Wings to fly
マイノリティーの人々だけの問題ではない
ザ・ヘイト・ユー・ギヴ――あなたがくれた憎しみ
アンジー・トーマス著、服部理佳訳
No.3353 ・ 2018年06月02日




■昔からのことわざに「長いものには巻かれろ」というのがある。自分より権力がある者には逆らっても無駄だから諦めた方が良いという意味だ。逆らって傷つく(下手をすれば殺される)人がたくさんいなければ生まれなかった言葉だろう。命は大事だしエネルギーを使わなくても済むし、巻かれちゃった方が楽である。だが、相手が間違っている時に「どうせかなわないから」と何も言わなかったら、その後どうなる? 辛い思いを覚悟で抗議する人は、いったい何のためにそうするの?
 スターは16歳の女子高生で、貧しい黒人たちが住み犯罪が多発する町で育った。スターが12歳の時、父は彼女に「警官に呼び止められた時にはどうすればいいか」を教えた。とにかく言われたとおりにしろ。手は見える所に出しておけ。いきなり動いてはいけない。質問への返事以外に口は開くな。
 ある日、一緒に車に乗っていた幼なじみの少年カリルは、警官が背中を向けている時に動いて撃たれ、彼女の目の前で死んだ。
 事件は白人警官に有利なように歪曲されてゆく。前にカリルと一緒に聴いた歌のように、黒人たちの怒りから暴動が起きた。
〈社会に植えつけられた憎しみが、やがて社会に復讐する〉
 皆はなぜ怒ってるんだ? どうすればいいんだ? 父親は、悩む娘にヒントを与えつつ自分で答えを見つけさせようとする。
 スターの父は元ギャングで服役の過去を持ち、今は小さな食料品店を経営しながら少年の更生にも手を貸す。母は、夫の過ちから生まれた息子にもわが子同様の愛を注ぎ、子どもたちへ常に有益な助言を惜しまない。この両親をはじめ、登場人物の人生の背景が細やかに描きこまれていて、好きにならずにはいられなかった。「この痛みを共有してくれる人たちの問題なんだ」とスターが言うように、彼らを取り巻く困難がまるで親しい隣人に降りかかる出来事のように感じてしまう。
 みんなの問題だから、みんなのために自分に出来ることをする。理不尽と戦うために勇気をもってあげた声が、実際に社会を動かすこともあるのだ。ひとりのハリウッド女優の権力者に対するセクハラ告発は、“Me Too”と女性たちにムーブメントを起こし、責任を追及した報道機関は先日ピューリッツァー賞を受賞した。
 本書が描くテーマは、決してマイノリティーの人々だけのものではない。「自尊心を持ち自分を恥じることのない生き方」という普遍的な問題も投げかけているように思う。







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