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評者◆睡蓮みどり
青春とプールと若松孝二――白石和彌監督『止められるか、俺たちを』、デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督『アンダー・ザ・シルバーレイク』
No.3371 ・ 2018年10月20日




■青春映画のなかでは、なぜ若者たちがプールに飛び込みたがるのだろう。今年の夏(平成最後の夏! らしい)、私は海にもプールにも行かなかった(今さら青春なんていう年齢でもないのだが)。飲んだノリで知人と行く約束をして翌日、水着まで買ったが結局行かなかった。次に会ったときにはその知人は約束したことなんてすっかり忘れており、なんとなく頭にきたので、その水着は着ることなく破いて捨てた。思い返してみれば、毎年、夏だからといって、海にもプールにも行く習慣などそもそもなかったのだけれど。青春でプールっていうと、やっぱり相米さんの『台風クラブ』(85)なんだろうか。
 『アメリカン・スリープオーバー』(2010)も、やっぱり少年少女がプールに入る青春映画で、冒頭のシーンから、少女がプールから眩しそうな目をして上がってくる。パッとしない日常がちょっとだけ違って見えたとき、少年少女は少しだけ大人へと成長する。それが青春だ(多分)。
 この作品で長編デビューを果たしたデヴィッド・ロバート・ミッチェル監督が話題になったのは『イット・フォローズ』(14)が公開されたときだろう。日本だと『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(16)公開と被ってしまい、ちょっと紛れてしまった感はある。タランティーノ絶賛の異色のホラー作品ということで少し話題に。性行為によって感染させられてから、自分にしか見えない「それ(it)」がじわじわ近づいてくるというもの。ゾンビと幽霊が融合したような不気味な存在に、マイカ・モンロー演じるヒロインは怯えた日々を過ごす。この映画のクライマックスとも言えるシーンはやっぱりプールだ。追ってきた「それ」を仲間たちとともに撃退しようとする。そして『アンダー・ザ・シルバーレイク』(10月13日より、新宿バルト9ほか、全国公開)でも、やっぱり気になる隣の家のあの娘=サラはプールで泳いでいる。しかしサラは翌日に会う約束をしていたのに失踪してしまう。謎の暗号を残して。
 サラの失踪の原因を探るオタク青年サムが、暗号の謎を解くうちにカルトな世界へ迷い込んでゆくダークファンタジーというのか、サスペンス――いや、やっぱりこの監督が撮ると紛れもない青春映画であることに気づかされる。なんだか男の子の好きそうな感じというか、『ブレードランナー2049』(2017)に通ずるネオ・ノワール。少年心をくすぐるような感じ。
 自分が生きているこの世界は、どこか思わぬところにつながっているのかもしれない、そして誰かが見えない暗号で動かしているのかもしれない、という得体の知れない恐ろしさ、気づいてしまった者だけに見える世界、永遠に続くと思われたのに終わってゆく時間。こうして書き連ねてみると、これまでのデヴィッド・ロバート・ミッチェル監督の(早くも)集大成という感じがしてくるし、このまま勢いに乗ってバンバン撮って欲しいと思う。
 サラを演じたライリー・キーオの笑顔は、マリリン・モンローを彷彿とさせるような、悪戯な瞳が印象的で、なんともいえない可愛らしさである。なんとお祖父さんがあのエルビス・プレスリーなのだ。主人公のサムはスパイダーマンを演じていたアンドリュー・ガーフィールド。残念なオタク加減が絶妙。タイトルにもなっているシルバーレイクは実在していて、今やロスのオシャレタウンなんだとか。裏原宿みたいな感じだろうか。プールよりもさらに巨大なレイク(湖)に、浮くなり沈むなり、身を任せる楽しみのある映画である。
■若松孝二監督の『水のないプール』(82)で内田裕也演じる主人公がタイトル通り、水のないプールに横たわるのはやっぱりいいシーンだと思う。若松さんは本当に多作なので、どれが一番とか甲乙つけがたいけれど、鈴木いづみと阿部薫のことを描いた『エンドレス・ワルツ』(95)は個人的にはやっぱり外せない。『天使の恍惚』(72)も捨てがたい。ドラマやVシネまで入れたら監督作品数は優に100本を越えている。若松プロの作品はとにかく多作だった。
 『止められるか、俺たちを』はそんな若松孝二監督と、彼とともに時代を駆け抜けた同志たちとの青春映画である。主人公は若松プロに自ら志願して入り、3年後に自宅でウイスキーと睡眠薬の摂取により、帰らぬ人となった助監督の吉積めぐみ。おかっぱ頭の彼女を門脇麦が演じる。足立正生監督の『女学生ゲリラ』(69)に出ていたあの人だったのか! と劇中のシーンで知り驚く。裏方で参加するも役者に駆り出されてしまうことは、特に低予算の現場では、今でもままある。同じ年に撮影された若松監督の『ゆけゆけ二度目の処女』にも続けて助監督として参加以降、71年に亡くなるまで迷いもがきながらも生き抜いた記録でもある。この映画に企画から携わった白石和彌監督もめぐみと同じく、若松組で助監督を務めた人の一人だ。『標的 羊たちの哀しみ』(96)で助監督を志願したという。『凶悪』(13)、『孤狼の血』(18)と今でこそ売れっ子監督だが、私はやっぱり『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(10)が大傑作であると思っている。
 これは実話を基に作られており、この作品に登場する人々は足立正生監督(山本浩司)をはじめ、現役で活躍する人も多い。脚本家の荒井晴彦(藤原季節)もニヒルなインテリの雰囲気が非常によく似ている、と思う。もちろん私は現在しか存じ上げず、若い頃の足立監督も荒井さんも知らない。「足立さんの鉛筆削りをやってたんだよ」と荒井さんが仰っていたエピソードが出てきたので、こういう感じだったのか、と感激する。若松監督を演じたのは若松組に多数出演の井浦新。若松さんが憑依しているのだろうかというくらいに、とにかくすごい。100人中100人が、井浦さん以外に若松さんを演じられる人はいないと、思うのではないか。『ピンポン』(02)公開当時、ARATAさんが演じる月本が格好良すぎて、シネマライズの画面を観ながら妙に照れたのを今でも思い出す。あれは私の青春だったのだと思う。
 過酷な映画撮影、激化する70年代。男たちの間で張り合うようにして日々を過ごし、自殺なのか事故なのか曖昧なまま、めぐみは死んでしまう――主人公が死んでしまう――その事実を映画に映し出すのはとても辛いものではあるし、青春のほろ苦さなんていうチョコレートのテイストみたいな表現じゃ、しっくりこない。妊娠がわかっても彼女は誰にも言わない。母親に電話するときは年相応の一人の女の子だ。膨れ上がるような熱量のなかに彼女の孤独は風船のようにぷかぷか浮いている。
 ところで、渚ようこさんが突然亡くなったと知り、信じられない。ライブで彼女の歌声を聞いたとき、なんとも言い難い、寂しいけれど幸福な夢を見ている気持ちになった。灰色のアイシャドーが世界一似合う人だったと思う。『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(08)での劇中歌も歌っていたが、本作でも「白い船の思い出」をようこさんが歌っている。高橋ピエールさんがギター伴奏した2012年のようこさんの歌の音源を送ってくださった。今も私のパソコンから彼女の声が流れている。なんだか止められなくて、エンドレスでこればっかり。
(女優・文筆家)







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