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評者◆高橋宏幸
じっけんってなに?――りっかりっか*フェスタの『ナイト・ライト』
No.3371 ・ 2018年10月20日




■毎年、夏に那覇を中心として国際児童演劇フェスティバルが開催されている。名前は「りっかりっか*フェスタ」。日本に舞台芸術の国際フェスティバルはいくつもあるが、このフェスティバルは児童演劇に特化して、とくに海外から招聘される作品のレベルが非常に高い。今年も10カ国以上、30本近くの作品たちが、10日間ほどの間に上演された。なかでもスコットランド特集として、いくつもカンパニーが紹介されたのは貴重だった。これだけ様々な国の作品を呼び、同時に質の高い児童演劇のフェスティバルは東京にもない。いや、東アジアや東南アジア一帯を見渡しても、有数のフェスティバルとなっている。それが沖縄にはある。
 作品はどれもおよそ1時間程度。少人数のパフォーマーによって演じられ、言語もほとんど要らない。テーマや内容もシンプルなものだ。しかし、シンプルであるからこそ、そこに深さがある。作品の形式としても、当たり前のように見ている演劇というもの自体を再び考えさせられる。子どものための演劇には制約があるが、逆に大人の視点では見慣れた舞台芸術のコードを逸脱する部分がある。
 たとえば、スコットランドのレッド・ブリッジというカンパニーが創った『ナイト・ライト』。出演するのは男性の俳優一人。教会の一室で、周りを布で覆った小さな空間で上演された。観客の人数も数十人と制限がある。舞台には子どもサイズのような、小さなアンティーク調の家具がいくつも置かれる。壁時計、テーブル、椅子、食器棚やランプなど。そこから始まるのは、淡い夜の時間から始まる小さな物語だ。
 夜の世界を見守るような男。かれはアンティーク家具の扉の向こうで起こる世界の出来事を見ている。犬が出てきて吠えたり、赤ちゃんが泣いたり、怖い映画をみる子がいたり、どこにでもありそうな夜。そして眠らない一人の女の子。かれはその子とともに夜の世界をめぐる。一つ一つは他愛もないことだ。
 ただし、出演する俳優が一人といったように、その他のものは実際に現れることはない。照明や音、もしくはその俳優が語りかける会話の断片によって、そこで起こることや実際に提示されていないものを観客に想起させる。つまり、愛らしい空間として夜の世界で起こっていることがイメージできても、舞台上にはすべてのものが不在なのだ。
 確かに最初に小さな犬の置物だけは出てくる。それが犬の役となる。しかし、その犬も家具の向こうを通って何処かに行き、あとは吠え声や俳優が話したり、あやしたりする行為だけによって犬のイメージが示される。それは、オブジェクト・シアターと呼ばれる、ものを扱って作品を創る方法ではある。しかし、不在のものの姿をさまざまなものを駆使して浮かび上がらせるが、その姿は一定していない。いわば作られるイメージそのものが可変的なのだ。だから、そこであらわれる女の子や犬のイメージは、観ている人によってまったく違うだろう。
 児童演劇に限らず、普通の演劇においても舞台にそのキャラクターを出さないことはよくある。第三者の会話や行為によって想像させることは、演劇の基本でもある。しかし、その場合はいないものに対してリアリティを求めるべく、人物や対象の造形は確固たるものにするし、ぼやけたイメージのものは通常はリアリティがないと一蹴される。しかし、そのイメージなどなくとも演劇は成立することを、まるで子どもたちならば、自由な想像力で受けとめることができるといわんばかりに作るのだ。
 あらゆるものが不在だからこそできる、その自由に造形されるイメージを提示することは、よほど大人の演劇で実験を謳う作品よりも観客に委ねるということでは挑戦的だ。もちろん、その舞台の表象は子どものための演劇らしく、可愛らしさを常に保っている。だから、観客が思う数々のイメージが違うことが、当たり前のように思えてくる。子どもの自由な想像力の方が、よほどすんなりとその状況を受け入れる。それこそがイメージと対象をどう結びつけるかという、いわゆる見る側と対象との間に結ばれる線を簡単に飛び越えることになる。まるでイメージによって世界は包まれているように。それが「イマージュ」というものであるかのように。







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