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評者◆睡蓮みどり
奪われる女、メアリー・シェリー――エルダル・シェンゲラヤ監督『葡萄畑に帰ろう』、ハイファ・アル=マンスール監督『メアリーの総て』
No.3378 ・ 2018年12月08日




■グルジア(日本では2015年よりジョージアと表記される)に行きたい。知れば知るほど魅力溢れる国だ。今のところ、一番行ってみたい。ちなみに2位はモンゴルで、3位はロシア。
 本年度は『花咲くころ』(13)、『祈り 3部作』(67、76、
84)と、素晴らしく心ときめくグルジア映画が日本でも公開され、10月には岩波ホールでのグルジア映画の特集上映も開催された。独特な言葉、宗教、そして何といってもワイン。グルジアはワイン発祥の地とされるコーカサス山脈一帯に位置する国でもある。
 1本目に紹介したい『葡萄畑に帰ろう』(12月15日より岩波ホール他全国順次公開)は、『青い山――本当らしくない本当の話』(83)のエルダル・シェンゲラヤ監督の最新作だ。「あらゆるものに意味を与えるワイン」と表現される結婚式のシーンがある。なんて素敵な言葉なのだろう。
 主人公のギオルギ(ニカ・タヴァゼ)は「国内避難民追い出し省」の大臣にまで上り詰めた。彼は、地位の高さを表す「ボタン一つであらゆる操作ができる椅子」を手にするが、あっさりと地位を失ってしまう。政治家としては、お人好しすぎたのだ。風刺とユーモアの溢れる人間像、ストーリー展開。
 監督自身が政治家として長く活動していた経験がこの作品には活かされているというのを知って驚いた。映画監督と政治家なんて、最も相反する生き方のような気がするけれど、その生き方が見事に作品のパンチにつながっている。権力にすがりつく人間に対する闘い方の一つとして、この作品は、食らったパンチに花束を返すような不思議な滑稽さと人間味が溢れている。温かみのある風刺なのだ。
 ギオルギの場合、人間味がありすぎて、政治家としては有能ではないのだろう。人を信じて見事に人にはめられる始末。だけど、彼がもし忖度ばっかり、自分の利益最優先の人間だったら、故郷である葡萄畑は彼を受け入れないのではないだろうか。画面のなかに広がるグルジアの自然は素晴らしい。画面越しでも空気が美味しいと感じる。一方で、思いがけないCGの使い方、椅子の存在感の表現の仕方等どこを見ても、85歳(撮影時は83歳)の監督の頭のなかはどこまでも自由であることに興奮させられる。監督の父と弟も映画監督、母は大女優という芸術一家。また本作では孫娘ナタリア・シュゲリも女優としてデビューした。
 2本目は、18歳という若さでフランケンシュタインという怪物を生み出してしまった一人の作家、メアリー・シェリー(エル・ファニング)の物語。彼女の壮絶で孤独な人生が美しい映像によって紡ぎ出される。思想家の母を自身の出産と引き換えに亡くし、作家の父と継母、義妹クレアとともに暮らしている。彼女の拠り所は、亡くなった母の墓場だった。「自分自身の言葉」を見つけるために父の提案で、彼女はスコットランドへ行く。運命の相手、詩人のパーシー・シェリーはまさかの既婚者で、駆け落ちするも、待ち受けるのは厳しい現実だった。
 メアリーはいつも苦悩している。愛する娘の早すぎる死、パーシーの前妻の自殺。美しいものを夢見る一方で、目の前に広がる生活はあまりにも暗く、陰鬱としていて逃げ場がない。ところでエル・ファニングって、いろんな役をこなせばこなすほど魅力的だなぁと思わされる。少女と大人の女性の間を自由に行き来できる。本作でも、夢見がちな少女から、意思をはっきり持った女性へと変わっていく様にドキッとさせられる。メアリーは逃げ出さずに、彼女の目を通してしっかりと今自分が生きている世界を見ている。空想の物語は逃げ場としての避難場所ではなく、メアリーの目にはっきりと映った現実世界そのものだ。
 しかし、物語の完成が彼女のゴールではない。「若い女が書いた怪物の物語なんて売れない」として、出版しても名前さえ出してもらえない。メアリーが書いたという事実は不要だということだ。メアリーはいつも奪われる女だ。美しい時代の全てを、孤独と悲しみ、微かな愛に捧げて。
 この作品の監督ハイファ・アル=マンスールはサウジアラビアで女性では初めて映画監督となった。『少女は自転車にのって』(12)など、女性の権利に寄り添った作品で知られる。本作も、一人の女性が自由を獲得しようとする、胸を打つ物語だ。
 ところで、敬愛する監督の一人、ベルナルド・ベルトルッチが亡くなった。77歳。初期の『暗殺のオペラ』、『暗殺の森』(70)や代表作『ラストタンゴ・イン・パリ』(72)、『ラストエンペラー』(87)にも魅了されてきたが、『ドリーマーズ』(03)や『孤独な天使たち』(12)といった比較的最近の作品も大好きだった。個人的には映画は変態性を孕んでいて欲しいと思うのだが、ベルトルッチの作品は必ずそういうツボをついてくる。落ちぶれた中年風情のマーロン・ブランドや若き日の初々しいルイ・ガレルに出会えるのも嬉しい。新作を見たかった、ともちろん思うが、ここまで質が高い作品を数多く残してくれたことや、魅了し続けてくれたことにただただ感謝。
(女優・文筆家)







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