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評者◆小嵐九八郎
悪口、死生観も読みどころ
蜜のあわれ/われはうたえどもやぶれかぶれ
室生犀星
No.3384 ・ 2019年01月26日




■老いての大作家や文豪がどんな小説を書いたのか、七十代になってから気になりだした。が、不勉強である小作家の俺は谷崎潤一郎の『瘋癲老人日記』と川端康成の『眠れる美女』ぐらいしか知らず、しかも二冊とも女がらみで、老いたら若い頃とは逆になるもんだと我ながら驚嘆するけれど“女性恐怖症”に陥って久しく再読はつらい。
 てなことを俺よりは年を食ってないが老編集者のOさんに話した。そしたらOさんは即座に「室生犀星の『われはうたえどもやぶれかぶれ』がすごいですわな。女は出てきてもただの人で、恋だの不倫だのに煩わされずに済む。代わりに死と紙一重の病と生が勝手な思いと感情に確かにあります」と言った。
 当方が書店に注文して手にすると、それは講談社文芸文庫の『蜜のあわれ/われはうたえどもやぶれかぶれ』に収録されていた(本体一〇五〇円)。
 俺は青春時代に犀星の『抒情小曲集』の中の「ふるさとは遠きにありて思ふもの/そして悲しくうたふもの/よしや……」などの詩が好きだった。『忘春詩集』にある息子を亡くしての『靴下』など、今なお涙を流してしまう。虚構以上の過ぎた不幸の生まれと育ちと不可分なのだろう。一方、犀星は散文の自由をも知り『性に眼醒める頃』、そして『杏っ子』へと行く。
 『われはうたえどもやぶれかぶれ』を読むとエッセイなのか、ノンフィクション的病床日記かなどの迷いはすぐにふっ切れ、その文章の粘り、リアリティ、折折の詩的表現に引きずり込まれてしまう。肺癌で死す半年ぐらい前の七十一、二歳の頃か、小水が出なくなるという閉尿の病気になり、病院に入院し、退院するまでの話である。おしっこが出ないというのは当方の老いての頻尿より苦しいと分かるが、男のものの描写と心理は読み手を説得し切り、圧倒する。入院してからの大作家の正直そのものの悪口、死生観も読みどころ。現今の週刊誌の老人の健康や病気に関する情報もよいが、その精神の前提がある。







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