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評者◆秋竜山
三畳でも燃えていた、の巻
No.3020 ・ 2011年07月02日




 昔、子供の頃、私にとって学校の教科書は何のためにあったのか。それは、端っこにパラパラ・マンガを描くためにあった。帳面ではうす過ぎる、教科書の厚さが、親指でパラパラやって、マンガを動かすのに、ちょーどよかったからであった。今でも、あのパラパラの動作が続いている。書店で、本を、まったく同じやりかたでパラパラやっている。動画の速度で、本の中身の内容を確かめる。もちろん、内容はわからなくても、活字の並び方で、なんとなく見当がつくものである。この本も、パラパラやってからであった。西和夫『二畳で豊かに住む』(集英社新書、本体七二〇円)。そのパラパラで目に飛びこんできたのが、
 〈池辺陽はこう語っている(林光・広瀬鎌二・栗田勇との四人の座談会、「現代日本建築家全集17」)。「大きな家はバカでも住める、小さい家に住むのには知恵がいる。ですから、小さい家が大きい家よりいい」。「昔の家は大きかったのにいまはなんで小さくするのか、という考え方、これは大変な誤解なんです」。「現在の建築技術が、人間をせまいところに押し込めたというのはうそです。(中略)どうやって小さい中でうまく住めるかというのは、われわれ自身の問題だ」。〉(本書より)
 昭和二十五年、池辺陽は「立体最小限住居」を名乗り提案しているというから、この池辺の発言もその頃の時代のものということになるだろう。本書では小さな家で狭いながらの生活をしていた著名人たち。
 〈たぶんみんな、無理と言うだろう。しかし実質二畳に、しかも夫婦二人で住んだ人がいる。作家の内田百間である。わずか三畳、うち一畳は上が物置なので実質二畳、ここに奥さんと住んだ。〉〈彫刻家で詩人の高村光太郎は、戦火で焼け出され、花巻の奥の山小屋に一人で住む。畳はわずか三枚半、そこにふとんを敷く。長崎の医者永井隆は、二畳の部屋で病に臥しつつ子供二人と住み、世界平和を訴えた。〉(本書より)
 このような大物の有名人になると、うらやましいほどすごいなァ!! という気がしてくる。これが無名な人となると、悲惨そのものになってしまう。
 〈明治の文豪夏目漱石は、若いころ、友人と二人で二畳の部屋に住んだ。この空間があの漱石を育てた。俳句と和歌の正岡子規は、病気の身を横たえるふとん一枚が我が世界だと書く。〉(本書より)
 やっぱり、うらやむほどのスバラシイ空間である。〈この空間があの漱石を育てた〉ということになってしまうのである。正岡子規とて、ふとん一枚の世界で歴史上の人物になったのだろう。そーいえば、昔、マンガ家に燃えて上京した私は、三畳の部屋に下宿した。自分にとって、これが一番ふさわしい生活の場と思った。独身だったことがよかった。「アア、あの独身時代はよかったなァ……」と、昔を想うということは、「あの三畳の空間がよかったなァ……」ということである。それだけのことであって、せまい所に住んだから、あの夏目漱石や正岡子規や、高村光太郎のようになれるわけではなく、「ウン、でも、あの広さでちょうどよかったよ……」という感想しかない。その当時は部屋のことなど一度も考えなかったものだった。燃えていたもの。







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