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評者◆小嵐九八郎
契機と醇化が重い
悔悟――オウム真理教元信徒 広瀬健一の手記
広瀬健一
No.3401 ・ 2019年06月01日




■この欄で二月だったか、「オウム死刑囚からあなたへ」をメイン・テーマとする『年報・死刑廃止2018』(インパクト出版会)について書いたが、なお、ヨガとかを契機にしての新興宗教集団のオウム真理教のかつての確信的な信者が、どうして、無謀というか地下鉄に乗っている普通の人人を殺したのかは解り得なかった。今なお「許せねえ」の感情が先に立つ。
 でも、オウム真理教の突きつけた課題は、人類のこれまでの宗教戦争だけでなく、「あらゆる闘い、万歳!」では済まないことを、恥ずかしい、一九九五年の地下鉄サリン事件が起きてから、ずるずる引っ掛かりながら解らないまま引きずってきた。
 それで読んだのが『悔悟』である。サブタイトルは、ちいっと長いけれど、『オウム真理教元信徒 広瀬健一の手記』(高村薫序文、本体1500円、朝日新聞出版)だ。
 むろん、この一冊は、よくもまあ平然と絞首台でこんな大勢の死を強いるものか、一九一一年の大逆事件による幸徳秋水以来の大量処刑を国家が二度も去年為したが、それで死に至った広瀬健一氏の文章で成り立っている。広瀬氏は、オウム真理教批判、その頂点の教祖に対する指弾を裁判で展開している。
 それで、なぜ、エスカレート式に早大に入った後に、オウムの武装の先端を担う出家信者になったのか、その要を記している。一つは、いや、始原は世界観の不安定の中でのヨガによる恍惚感だ。俺には解らないが、ま、桜に酔う、緑に酔う、女体に酔うの濃縮した感覚であろう。次に、教祖もかなり賢く慎重なのだが、そこいらの人人を殺せる論理、倫理、ま、外目には“カッコよく”“高踏的”に映る理屈で押す。「地獄に転生する責め苦は、殺される苦痛の比ではない」と殺人が“ポア”と正当化され、“悪業”を持つ人人をや国家が核戦争を起こす前にオウムによる国を、が次に待っていて、広瀬氏も慣れて嵌っていく。この二つ、契機と醇化が重い。
 国家や、あまりに強権を持つ力への抵抗、反抗は人類の宝の営為。ゆえに、広瀬氏のリアルにして痛苦な反省を噛みしめたい……。







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