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評者◆小嵐九八郎
社会と風俗に迫る力には吐息が出る
天皇組合
火野葦平
No.3393 ・ 2019年03月30日




■ある人から「奇想天外だけど、終戦直後の歴史が詰まっている」と小説本をいただいた。えっ、確かに、タイトルだけでぎょっ、『天皇組合』。河出書房新社刊、本体1700円だ。但し、底本は1950年に中央公論社から出版されている。
 著者は日中戦争に従軍中の1938年に中国にて芥川賞を『糞尿譚』で受賞し『麦と兵隊』が爆発的に売れた火野葦平であると『新潮日本文学辞典』にはある。『糞尿譚』の小説は読んだことがある。一昔前の直木賞的作品で苛めを晴らす痛快小説と記憶している。中学一年頃か、その映画も観た。ラストあたりの鬱憤を糞尿バラ撒きに託すシーンは九州男児的な快さに思えた。
 が、この火野葦平は一筋縄ではいかぬ作家なのだ。若い時にはマルクスの著作に親しみ、沖仲士の労働組合を結成して逮捕され、留置場にて転向を誓ったり、しかし、敗戦後はGHQによって、戦争中の小説上の“戦意発揚”を問われて公職追放。ま、60年安保とか70年安保の世代だってころころ変わったり、ぐちゃぐちゃするから、それより大動乱の戦争と敗戦を迎えた頃の人ゆえしゃあないとは思うが、かなり怪し気な作家とも映る。
 その上で、読み進めていくと、天皇制を含めて「解説」で陣野俊史さん、高沼利樹さんが記すように「政治的なメッセージを導き出すことは難しい」。でも、タイトル、何人も出てくる自称天皇の出現自体が、歴史の事実にほぼ近いとしても、天皇制を根っこから否応なく考えさせてしまうものを持つようだ。日本史上最大の人人の動転と苦しみの時期の小説に、ふやけたとも思えるナンダカ春樹さんも学ぶと良いのかも。
 政治的メッセージはない、としても、敗戦直後の飯、宿、交通、宗教、ほんもののいかがわしさのある社会と風俗に迫る力には吐息が出る。当方が、物心のつく前後の看護婦が売春婦になるしかなかった流行歌の『星の流れに』(1947年)、『長崎の鐘』(1949年)とは別の人人の匂い、感情、汗に満ちている。







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