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評者◆添田馨
原点が、ここにある――二月八日夕刻、渋谷駅ハチ公前広場の光景
No.3200 ・ 2015年03月28日




■2015年2月8日夕刻の渋谷駅ハチ公前広場の光景を、私はおそらく一生忘れない。その日はシリアでイスラム過激派勢力(IS)に拘束され、殺害された二人の日本人を追悼する集まりがツイッターなどを通して呼びかけられていた。何らかの政治的アピールなどを目的とするのではなく、ただ彼等二人を悼むというだけの集まりとしか事前の情報はなかった。これと同様の呼びかけは東京だけでなく、全国数か所でも行われていたことを私は後になって知った。いずれも組織的な動員によるものではなかった。
 私が到着した五時半ごろ、広場にはもうすでに人々が集まりはじめていた。ざっと見渡したところで、正確ではないが三~四百人といった人数だったと思う。灯をともした蝋燭を持つ人や、それぞれ思いおもいのメッセージ、例えば二人の遺影と「May Rest in Peace」の文字や、パリでのシャルリー・エブド襲撃事件の連想からか「JE SUIS KENJI」のカードを無言で掲げている人たちなど、さまざまだった。
 ハチ公前広場は都内の繁華街の中でも極めつけの雑踏である。加えて、いくつもの映像広告の大音響が周囲のビルから絶えまなく渦巻く谷間のような場所であり、すぐ脇をJR山手線がひっきりなしに通過するなど、普段から騒々しいことこの上ない場所である。しかしこの日、まわりの騒音にもかかわらず、その一角だけは不思議な静寂が支配していた。集まっている者たちは、誰ひとり声を発しない。発しないが、それぞれ掲げるメッセージとその押し黙った表情には、何か毅然としたものがみな一様に認められた。
 広場をそのとき支配していたのは、いうならば実に確固とした沈黙だった。テロ集団への報復を煽る者もいなければ、政府対応を声高に批判する者もいなかった。だが、そうした心情的な沈殿物をぜんぶ呑み込んでなお余りあるものが、言い換えれば、言葉にならない行動の原点が間違いなくここにある――そう私には思えた。







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