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評者◆添田馨
暗黒の時代から漆黒の世へ⑲――構造としての〝アベシンゾー〟⑪
No.3400 ・ 2019年05月25日




■おお、こんな闘い方があったのか!――新元号が「令和」に決まり、瞬間どうにも違和感ばかりが先に立っていたが、冷静に読み解いていくとこんな感動が湧いてきたのだった。言葉というものの闘いの隠れたドラマの片鱗が垣間見えたからである。
 「令和」とはひょっとして近年になく素晴らしい元号なのかもしれぬ。私にそう思わせたのは、出典を『万葉集』だと説明し、初めて漢籍以外の国書から採った元号だと、自らの無知をさらけ出した総理以下政権幹部らの説明がきっかけだった。
 政府の説明通り「初春令月 気淑風和」(万葉集、巻五)から「令」と「和」を採ったということなら、この二文字のあいだに観念連鎖のまったくないことが瞬時に分かる。単に文中から舌触りのよい二文字を拾っただけに過ぎない。理念らしきものの片鱗もないのだ。
 そのことを理由に、私は当初、この元号は失敗作なのではないかとさえ思った。認識が変わったのは、「万葉集」のくだんの箇所には、より古い漢籍の典拠があるらしいと囁かれ出してからである。
 王義之「蘭亭序」(353)と張衡「帰田賦」(138)――前者は漢詩文のあまりに有名な序文で、後者は腐敗権力への批判をモチーフに持つ漢詩作品だ。上等な出自ではないか。「万葉集」の序文が先行するこれら漢詩文脈を背景に成立したものだとすると、「令和」は元号である以前に、それ自体が超短躯の〈詩〉なのではないかとさえ私には思えてきた。
 表向きは当たり障りのない語彙でその真意を隠し、その実、裏側には政権への鋭い批判を埋め込ませ、国書出典にこだわったとされる総理の意向を形式上クリアしつつも、その本質では伝統に則って漢籍の地下水脈にまでしっかり根を下ろすという周到精緻に創りあげられた二文字だけの〈詩〉――「令和」成立の物語とは、浅はかな国粋感情をいだく為政者の狭い了見を、二千年もの歴史を背負った〈詩〉が見事に打ち砕いた正真正銘の“闘い”だったと長く記憶されるだろう。







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