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評者◆秋竜山
ハガキのお宝、の巻
No.3282 ・ 2016年12月10日




■単純に、「昔はよかった」。これが昔話の主題である。田舎へ行く程に、小さな村があり、どんな山奥の小さな村であっても、必ず小さな郵便局があった。特定郵便局(アア、なつかしい響きだ)。私はそこで局員として三、四年お世話になった。マンガ家を夢みていた頃であったから、窓口でハガキを売ったりしていたが、頭の中はマンガのことばかりだった。郵便局にマンガばかり描いている局員がいる、なんて噂がたっていたと、退職した後で知った。そして、よい想い出しかない。全国から、歴史ある明治時代から続いていた郵便局がアッという間に廃止されてしまった。それが時代の政治というものなのか。はっきりいって国民もよくわからなかったのではなかろうか。郵便ポストが赤いのもみんな私が悪いのよ!! と、いう時代ではなくなってしまった。郵便ポストの赤いのは永遠のものかと思っていたら、今の時代は青いポストに変わったりしてしまった。世の中、一寸先はわからない。ポストの色も一寸先がわからないものだと、つくづく思う。
 中川越『印象にのこるお礼、あいさつのハガキ――感じのよい感謝と誠意の伝え方』(同文書院、本体一〇〇〇円)では、〈印象にのこる〉〈感じのよい感謝と誠意の伝え方〉と、いわゆるハガキの書き方の本である。
 〈なによりの梅干しお送り下されありがたく存じます。朝茶に添えて梅干しをいただくのは私の習慣のようになっていますから、これからは当分お送り下さったものを毎朝の友として、その度に御地のことを思い出すでしょう」と、書いたのは、あの島崎藤村です。〉(本書より)
 藤村クラスになると、たった一枚のハガキでも額におさめて、毎朝かかさず拝みたいものである。テレビの開運鑑定団では相当の値がつくだろう。梅干しがハガキのお宝に化けたのである。ハガキによってはさまざまなお宝に化ける。若い頃のよき友などとのハガキのやり取りも価値あるものだ。
 私は田舎の小さな郵便局で毎日ハガキを区分棚へ区分していた。左手に三百枚ぐらいのハガキの束を持ち、右手で都道府県などの郵便局宛名の区分棚へ一枚ずつ放りなげるというか、まるで忍者のシュリケンのようにピューピューと、なげ入れる。それが局員の私の作業の一部でもあり、仕事であった。年末になると、年賀ハガキが山と積まれた。今になって馬鹿なことを考えてしまう。ハガキ大といい、束の厚みといい、一枚を一万円札にしたら、いったいいくらぐらいしただろうか。三百枚だったら片手三百万円か。考えてみれば毎日、数百万円の一万円札を、無造作に放りなげ区分していたのだ。ハガキでよかったか。一万円札であっても、他人のお金である。
 〈病床の正岡子規は、長塚節から鴫をもらい、「鴫三羽ありがたく候、淋しさの三羽減りけり鴫の秋」という礼状を書きました。〉(本書より)
 このような礼状はなかなか書けるものではない。
 〈たとえ達筆でも、草書や行書は読みにくいので、好ましくありません。一字一字心をこめて、楷書でていねいに書いてください。そのていねいさが、必ず感謝の気持ちをより強く伝えます。〉(本書より)
 下手くそな字でも、ていねいに書くと心が伝わるだろう。筆不精も、原因は、人に見せられないような字しか書けないことにあると本人はいう。達筆なくせに……。







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