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評者◆秋竜山
マハ不思議、の巻
No.3402 ・ 2019年06月08日




■考えてみると、なんとも不思議な絵画である。と、いうのは、〈フランシスコ・デ・ゴヤ〉の二枚の作品である。〈「裸のマハ」〉と〈「着衣のマハ」〉だ。同人物のモデルである。どちらも同じポーズをとっている。この絵を見た時、どちらをほしいかというと、「裸のマハ」に決まっている。「着衣のマハ」もゴヤの作品である。同じ価値あるものだろう。妻に相談してみる。
 「お前どーする?」「あなた何いってんのよ。両方に決まってるでしょ」「バカ。欲というものだ。一枚を選ぶとしたらだ」「だったら、『着衣のマハ』に決まってるでしょ」「エッ!! 俺は『裸のマハ』だ。誰が何といおうと『裸のマハ』だぞ!! 芸術作品として『裸のマハ』のほうが、すぐれている」「うそおっしゃい。芸術作品だなんて、あなたは、たんなる裸の絵をほしいだけでしょ。裸の絵をどーするのよ。どこへ置くのよ。どこへ飾るのよ。家の中のどこへ。玄関はダメよ。茶の間もダメ。それにどこの部屋へも飾れない。子供たちに、どー説明するのよ。『着衣のマハ』だったら別だけど」と、いうような夫婦のやり取りが聞こえてくるようだ。
 こだわり知識愛好会『名言で楽しむ「世界の名画」』(PHP文庫、本体七四〇円)は先の号で取りあげた本であるが、あえてまた今号も。
 〈西洋の絵画において、はじめて露骨にアンダーヘアが描かれたのは、フランシスコ・デ・ゴヤの「裸のマハ」である。両腕を頭の後ろに組み、艶めかしい視線を送る彼女の登場は、一九世紀初頭の人びとにとっては想像を超えた出来事であっただろう。〉(本書より)
 このような絵画を、たとえ芸術作品であろうと、有名なゴヤが描いたものであろうと、家庭に飾るということは相当な勇気がいる。子供の前に見せられるわけがない。家庭以外のところだったら問題はないかもしれない。なぜ家庭にこだわるか。家族のものがどのような反応をしめすか。子供たちに何と説明したらいいのか。「あのね。この、おねえちゃんは、お風呂にはいって、今でたばかりだから裸でいるのよ」なんて、いえるだろうか。「着衣のマハ」に関しては、問題はないだろう。「この、おねえちゃんは、ベッドの中にいるのよ」で、すむだろう。この二枚の絵画は、それなりの理由があったのである。
 〈一説によると、マハのモデルはゴヤの愛人であったアルバ女公爵で、彼女の魅力的な裸体を残しておきたいと願ったゴヤが、まず「裸のマハ」を描いたのだが、彼女の夫、アルバ公爵が二人の仲を疑っていたことを知ったゴヤが、アルバ公爵が急にアトリエに来ても言い訳ができるように「着衣のマハ」を描いたのではないかという。〉(本書より)
 なんとも、フランスの艶笑小話のようである。で、謎はとけた。「裸のマハ」は、充分たのしみながら時間をかけて制作したことがよくわかる。非常に、ていねいに描いているのに対し、「着衣のマハ」は、あわてるようにして裸体に衣類をつけたように思える。やはり、裸体に衣類をつけるというのは、ちっとも面白みがない。衣類をぬがせるほうが正しい女性のあつかいのような気がする(男として)。
 それにしても、この二作品を並べてみると、二コマ漫画のようでもある。大人の芸術作品といったところだろう。







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