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評者◆秋竜山
どーしたらいいんだ私は、の巻
No.3405 ・ 2019年06月29日




■町山智浩『映画と本の意外な関係!』(集英社インターナショナル新書、本体七四〇円)で、昔観た映画を思い出した。津波で豪華客船が転覆するという、とてつもない発想の映画だった。このような発想は、ひらめきの中でうまれるだろうけど、それを映画にしてしまったということが大きなショックであった。当時パニック映画の先がけではなかったろうか。この映画の後、パニック映画が続いた。新宿の大劇場の大スクリーンであるだけに、現実の現場で自分も大惨事にまきこまれたような気分にさせられた。
 〈パニック映画の古典「ポセイドン・アドベンチャー」(ロナルド・ニーム監督、72年)。津波で転覆し、上下逆さまになった豪華客船で、乗務員は乗客にパーティールームに残って救助隊を待てと言う。これに反論するのが牧師(ジーン・ハックマン)。彼は「神は座して運命を待つ者より、自ら助くる者を助く」と、浸水する前に上、つまり船底のスクリュー目指して登ろうと主張する。〉(本書より)
 そんな時、自分がそこにいたらどーするかと考えてしまう。映画の登場人物ではなく、現実の自分である。沈没ではなく、船底が海面に浮いた状態である。おそらく、私は腰をぬかして立ち上がるどころではないだろう。映画の場面は、船体が転覆して天井と床が逆転してしまっている。牧師のいう神に運命をまかせるとしたら、行動せよというようなことは、まず無理だろう。
 〈牧師が正しいかどうか何の保証もないが、パメラ・スー・マーティン演じる女子高生は彼に従う。彼女は床に固定されたテーブル(転覆後は天井にある)に取り残されたが、牧師が広げたテーブルクロスに飛び降りて助かった。〉(本書より)
 もし、そこに女子高生の彼女と一緒に私がいたとしたら。私は彼女の後に続くだろうか。いや、わからない。彼女に、「おじさんどーしますか?」と、言葉をかけられたとして、私は「ハイ」と、答えるだろうか。もし、ケータイがあったなら、「とにかく、家へデンワして、女房に聞いてみる」なんて、わけのわからないことを言い出すに決まっている。「オイ!! どーしよう。お前、どーしたらいいと思う」「何が?」「彼女と一緒に、飛びおりるべきだろうか」「あんた、何をねぼけたことを言ってるのよ」「バカ、生きるか死ぬかのどっちかだぞ」「だったら生きるほうにすればいいでしょ」「それが、生きられるかどうか、わからないから電話してるんだ」。そこでケータイの電池切れ。その時女房が、「彼女の後に続きなさい」と、言ったとしたら、どーなのか。女房が、そー言ったから、そーしよう。と、すんなり決断するだろうか。では、何のために女房に電話などしたのだろうか。わからない、知らない間にとっさに電話していた。女子高生の彼女が叫ぶ。「おじさん、どーするんですか」。私は彼女に向かって叫ぶ。「どーしたらいいんだ私は」。彼女が「もー好きなようにしてください。私は飛び降りますから」と、言い終わらない内に飛び降りた。私を捨てるようにして。そして、彼女は助かった。「それじゃあ、おじさん手をつないで二人で飛び降りましょう。怖くないからね」。彼女にそれくらいのやさしい言葉をかけてほしかった。結局、私は飛び降りることができなかった。その後の私に神はどのような運命をくだしたのだろうか? そんなことを考えさせられる映画であった。







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