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評者◆殿島三紀
目の前で起きている政治的事件を現在進行形で描く――監督 藤井道人『新聞記者』
No.3405 ・ 2019年06月29日




■『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』『ザ・クロッシング Part1,Part2』などを観た。
 『ニューヨーク公共図書館』。ドキュメンタリーの巨匠、フレデリック・ワイズマン監督作品。世界最大級の知の殿堂と言われ、本館を含む計92の図書館から成り立つニューヨーク公共図書館。図書館がどうやったら205分ものドキュメンタリーになるのかと疑問だったが、なるほど「これが図書館の仕事?」と思わず訊き返したくなるくらい、その仕事は多岐にわたっていた。読書会や作家の朗読会は想定内としてもネット環境の整備から就職活動のサポートまで。近頃、悪い面ばかりが目立つアメリカだが、この図書館だけはアメリカの華かもしれない。
 『ザ・クロッシング』。監督は『レッドクリフ』のジョン・ウー。国共内戦時代を舞台に、戦争によって引き裂かれた3組の男女の愛の物語を前後編(256分)にわたって描いた壮大な作品。前編では実弾を使った迫力の戦闘シーンに圧倒され、後編で繰り広げられる太平輪号の沈没には息を呑む。同船は乗船者約1千人の内、僅か34名しか生還しなかったという中国版タイタニック。しかし、この事故も過積載と春節で酔っ払った船員のミスといういかにも“中国あるある”が原因なのだが。
 さて、今月の新作映画は『新聞記者』。東京新聞・望月衣塑子記者のベストセラー『新聞記者』にインスパイアされ、企画構想された。令和という時代に移っても、官邸をめぐる不祥事や不都合な真実が雲散霧消したなどということはもちろんなく、官邸の横暴、それを忖度する官僚、そして、それらを見過ごすTV報道、新聞――。
 第二次安倍政権の発足以降「世界の報道の自由度ランキング」(国境なき記者団)で日本は2016年、17年と連続72位。これはG7各国の中でも最下位だ。忖度は官僚だけに留まらず、メディアにも及んでいるのかと言いたくなるし、辺野古移設問題では沖縄県民の声など耳に入らず、とばかりに強引に土砂が投入されている。そんな時、聞こえてきたのが望月衣塑子記者の声である。官邸記者会見で彼女が発する鋭い質問。まだ、こんなことを言える記者がいたんだ!
 ところが、2016年8月末、官邸報道室の「望月の質問だけは制限したい」という声を受け、同記者への質問制限や妨害が始まり、昨年12月、沖縄関連の質問が始まって以降、妨害はさらに悪化。記者クラブには望月記者や他の記者に精神的な圧力をかけ、質問を委縮させるような貼りだしも行われている。
 本作の主役、新聞社会部の若手女性記者をシム・ウンギョンが、内閣情報調査室勤務の苦悩するエリート官僚を松坂桃李が演じる。ある日、社会部に「医療系大学新設」に関する極秘公文書が匿名ファックスで送られてきた。驚くべき内容のそれは内部リークか、誤報誘導の罠か……。
 企画・製作プロデューサー河村光庸氏は「これは現在起こっている政治事件をまさに現在進行形で描いた史上初の映画」だと言った。この目の前にあるニュースに潜む真実を映画という武器で鋭く抉り出したのは藤井道人監督。内閣情報調査室の建物内は妙に灰色にくすみ、建物の外はカラッと晴れた冬枯れの永田町。メリハリの利いた画面構成で観客をひきつける。かつてこんな邦画は観たことがなかった。まさに現在進行形の事件を追った映画であり、ドキドキするような本格的社会派エンタテインメントである。映画の中には文科省元トップのスキャンダルとして登場する前川喜平元次官や元ニューヨークタイムズの支局長で「メディアがこの時代と充分戦う体制ができていない」と発言したマーティン・ファクラー氏、望月衣塑子記者も出演している。「記者会見は、政府のためでもメディアのためでもなく国民の知る権利のために……」。
 映画だからこそできたものすごい訴求力を持つ作品だ。
(フリーライター)







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