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評者◆秋竜山
酒と、いえば、あの人、の巻
No.3410 ・ 2019年08月03日




■昔、〽お酒のむな、お酒のむな、のー御意見あれーど、ヨイヨイ!! 酒のみはァ酒のまずにいられるものですか……なんて歌があった。子供までも面白がって大きな声で歌ったものだった。酒というものは、酒をのめる人のためにある、ものなのか。のめない人のためにあるのではないのか。酒のみの仕草をやらせたら、酒を一てきものめない人のほうが、のむ人よりも上手であるといわれた。酒をのむと人が変わってしまう人もいたりする。普段無口の人は酒が体内にしみると、おしゃべりになってしまうというのも酒のなす業である。酒のみが酒をのまない人に「何が人生たのしいんだろう」と、いった。「のまないから、たのしいんだ」と、いいかえした。酒はのんでものまれるな!! と、いう。のまれるからたのしいんだろうに。昔、真冬などに一ぱいひっかけて帰り道、「ウ~寒い、酒がさめてしまう」などという人もいたもんだ。酒と、いえば、あの人である。
 齋藤孝『50歳からの音読入門』(だいわ文庫、本体七〇〇円)で、
 〈両人対酌 すれば 山花開く
 一盃一盃 復た一盃
 我酔ひて眠らんと欲す 君且く去れ
 明朝意有らば 琴を抱いて来たれ

 現代語訳

 二人が向かい合って酒を酌んでいると、山の花が咲いて楽しい。一杯一杯また一杯と酒を酌み交わす。私はもう酔って眠くなってしまった。君はちょっといなくなってくれ。その気があれば明朝、琴を持って来てくれ。〉(本書より)
 知らない人はいないくらい有名な李白の詩である。山水画の中で酒をのんでいる風情がして、味わい深いものだ。酒をのまない人どうしでも、やってみたいものだろう。
 〈三百六十日
 日日 酔うて泥のごとし
 李白の婦たりと雖も
 何ぞ太常の妻に異ならん

 味わうポイント

 李白は一年三百六十日、休みなく酔っ払って妻を顧みなかったのでしょう。その戯れ言の裏に、妻へのいたわりの思いがにじみ出ています。泥酔したときにこの詩を読み上げ、妻に捧げるのも酔狂かもしれません。〉(本書より)
 世の中には、アル中がいっぱいいる。それは只のアル中であり、只ののんだくれである。しかし、李白は違う。そんじょそこらのアル中とは違う。後世に伝える詩を酔っぱらいの中でつくり上げている。こんなのは、どうーだろうか。実は李白は一てきものめなかったとしたら……。のめない中で、このような酔っぱらいの詩を残していたとしたら……。酔っぱらいを演ずる名人芸も、実はのめない人である、ということ。それが芸の力というものである。本当ののみ助に酔っぱらいを演じてみさせても、まったく下手くそであったということも、ありえるだろう。酒をのめないのに、酒のみを演じさせたら天下一であってこそ、芸術というものだろう。酒のみがいかに酒のみの演技が上手だからといって、芸とはいえないだろう。李白が酒のみの気持をよくあらわせているというのも、やっぱり下戸であったというもののほうが面白いのである。







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