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評者◆秋竜山
現代彫刻のようなテトラポッド、の巻
No.3413 ・ 2019年08月31日




■ある時、私の生まれ育った田舎の小さな漁村の港の防波堤の先端の場所に、見たこともない謎の物体があった。私は、とっさに思ったことは、まるでUFOのような。でも、UFOというと、空飛ぶ円盤形ということになるが、それとも違う、はじめてみる姿形をしている。あまりにも単純化されたデザインに不気味ささえあった。このようなものが、どうして、このようなところにあるのか。それも不思議であり、まず、驚きの目で見ていた。
 〈テトラポッド〉と、いうものであった。志村史夫『いやでも物理が面白くなる』(講談社ブルーバックス、本体一一〇〇円)で、このテトラポッドについて言及している。
 〈同じ方向に4本の突起をもつコンクリート塊だが、この4本の突起が互いに強く絡み合って、荒波にも流されずに、海岸線を守っている。もちろん、テトラポッドというコンクリート塊は人間が考え出したものだが、その原形は図4・15に示す、非常に強固な原子の結合形(正四面体結合)からヒントを得たものであろう。(略)ちなみに、テトラ(tetra)というのは“4”を、ポッド(pod)は“足”を意味するギリシャ語である。〉(本書より)
 最近では、めずらしーものではなくなった。漁村とか海岸近くに台風などによる荒波をふせぐために大量の数のテトラポッドがならべられたり、つみあげて置かれている。ラグビー選手が、がっちりスクラムをくむような連想もさせられるが、ちっとやそっとの波にもビクともしないだろうと思われる。事実そのようでもある。テトラポッドが強い波に流されたということもきいたことがない。コンクリートのかたまりであることがわかる。災害用のためのものであることはわかるが、私はそれとは別に、その姿形に芸術性を感ずるのである。現代彫刻というか。コンクリートにかためられてつくられた作品ということだ。そして、はじめて見た時の異様な物体として目にうつった感覚は今でもまったく変わっていない。野外彫刻というとらえかたもできよう。ところが今まで、期待して待ってはいるが、そのようにとらえる芸術家が一人もあらわれていないということだ。人々は、テトラポッドを見て、なんとも感じないのだろうか。面白がっているのは私一人か。
 たとえば、このテトラポッドを一基でもよい、上野の芸術の森のある美術館などに、ポツンと置いてみたらどうなのか。たぶん一般の人たちは、「海でもないのに、なぜこんなところに置かれてあるんだ」と、ぐらいは思うかもしれない。それ以上に不思議がることもないだろう。ところが、ここに一人でもいい、著名な芸術家があらわれて、そのテトラポッドについて、「今世紀最大の彫刻作品だ」などと、ぶちあげたらどうか。一瞬の内に、そういうことになってしまうだろう。なにも美術館などに置くこともあるまい。海岸で荒波と格闘している姿でいいわけだ。それを芸術作品として、みなさなくてもいいわけだ。芸術作品だなんていうと、とたんにテトラポッドの価値が無くなってしまうかもしれない。
 ある時、漁村の港の近くにある広場で、このテトラポッドをつくっている作業を見る機会があった。テトラポッドの姿形の外装の中は空洞になっていて、その中へ生コンを入れるという単純作業であった。私はちょっと離れたところでそれを眺めていた。二時間あまり黙って眺めていたことになる。バカ馬鹿しくもなってくるが、私一人だけだった。







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