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評者◆小嵐九八郎
多くの人の胸へと――祈る――水谷文子著『どなた』(本体二六〇〇円、角川書店)
No.3417 ・ 2019年10月05日




■ざっと読んだだけで積んでおいたこの一年間にいただいた歌集を、先月からちゃんと読んでいる。俺は自称歌人だが結社に入っておらず、どうしても自己納得的に短歌と向き合う傾きがあり、一年に一度は勉強をし直す。
 それで、歌集としては珍しくタイトルが漫画やエンターテインメントの小説みたいで「おやあ」となるのがあった。『どなた』というそれだ。直感として、愛する夫や子への拗ねた抗議か、哀しくも老いて惚けてきた父や母からの呼び掛けかと捲っていくと、後者だった。
 その『どなた』は、水谷文子さんの歌集だ。角川書店刊、もしかしたら正確には角川文化振興財団刊で、「かりん叢書第346篇」とあり、定価は税別で2600円。
 核となる一首は「わが母に〈どなた〉と問はれふるさとにことば失ふわたしは〈どなた〉」だ。ふるさとは秋田で、母親は二〇一三年に九十三歳で天国へ召されたとあとがきで分かる。俺は秋田県の外れの能代に小二までいたので、それから勝手に味わうと「ふるさとに」がまず効いている。地方の親にとっては、子が進学や就職で都会へと行ってしまい滅多に会えない辛さがある。子にとっても然り。というより、少子化がまずやってくる地方にとっては切ないことで、普遍的なテーマが籠められている。それと水谷文子さんの母親は秋田弁でなく東京地方語の「どなた」を使っていて、娘との距離が示されている。
 他にも母親についての「きさらぎのトイレ詰まらせ濡れそぼつ昨夜の母の顛末を聞く」、「誤嚥してしろくなる肺なにも食べず食べさせられぬ水際へ来たり」など思わず泣いてしまう歌もある。
 老いさらばえた母の歌だけでなく、近頃の歌人が避けたがる社会・政治にもきっちり向かっている。「被曝せる作業員みな二十代あはれ傷まし長靴もなしと」、「橋上の被爆し火ぶくれとなりし姉をこころに抱き被爆者節子」。
 多くの人の胸へと――祈る。







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