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評者◆小嵐九八郎
読後五日しても、なお、吐息
何が私をこうさせたか――獄中手記
金子文子
No.3420 ・ 2019年10月26日




■二十一歳の時の一九六六年の授業料値上げと学生会館の管理運営権を巡る学園闘争から、一九六七年十月八日の当時の首相のヴェトナム訪問阻止の闘いを突破口とする新左翼の党派人として潜り、ついには通称・内ゲバ、党派闘争をやり、やがて内部分裂と崩壊へと四十ウン歳まで付き合った者として、この本を読んでいなかったことは恥ずかしい。もっと切実な豊かさを知ることができなかったのは無念そのものという文庫本に出会った。ゴンッ、とくる手記、自伝としてはJ・J・ルソーの『告白』並である。
 その本を、いや、獄中手記を書いたのは金子文子だ。一九二三年の関東大震災では、軍隊・警察官・民衆により朝鮮人虐殺、社会主義者が殺される亀戸事件、無政府主義者の大杉栄や伊藤野枝らが殺された甘粕事件と起きたが、その際に、金子文子はアナーキストのそれなりのゴリで同棲していた朝鮮人朴烈と共に逮捕され、そのうち治安警察法で起訴。法に無知な俺の憶測では、やがて死刑しかない旧刑法第七十三条、いわゆる大逆罪で死刑判決を受けた。ま、匂いはあっても捏造の件なので、当時の支配者も気が引けたか「無期懲役」に減刑したが「解説」(山田昭次著)によると「従順な臣民にしようとする天皇制国家の策動に断固として抵抗し」、「減刑状を破り捨てた」のである。根性が据わっている。この時、彼女は二十三歳。
 ああ、しかし、金子文子は獄中手記を事実上の遺書として書き終え、宇都宮刑務所栃木支所にて首を自ら締め、自死。
 世界の時代はドイツでナチス党が結成され三年、イタリアでファシスト政権が成立して一年。日本は『文藝春秋』創刊、『赤旗』創刊、北一輝の『日本改造法案大綱』が出版。
 その本とは『何が私をこうさせたか――獄中手記』(本体1200円、岩波文庫)だ。
 中身には、金子文子が“無籍者”、つまり戸籍そのものがなく、親戚を転転とする過酷な“独り”での暮らしと当時の無産階級の徹底した貧乏が詰まっている。それを越える涙一合ぐらいの現実と、かなりの端正で凛とした文章の確かさを読み手によこす。読後五日しても、なお、吐息。







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