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評者◆小嵐九八郎
詩の拡がりと集中の自覚――浅沼璞句集『塗中録』(本体一五〇〇円、左右社)
No.3435 ・ 2020年02月15日





■かすかすの原稿料が飯の元なので、小説家と名乗っている。格好良く表せば一人で悩み、正確に言えば一人で自分に酔っている狭い世界だと思う。ただ、担当の編集者が生生しい他人で、うるせえなとか、売れない小説のツケでしゃあないとか、時には批判が広く深くて正直に感謝している。本当は小説を読んでくれる人が真っ当な格闘相手だろうが滅多に直にはお目にかかれない。
 歌人は自称で、去年の有料注文の依頼は五十五首でしかなかった。ブンガクへの志の出発は監獄で浮かび始めた俳句だった。でも、思想的に破綻がくる頃でその哭きの心情は五七五に収め切れなくて短歌となった。娑婆に出てから短歌結社に二年半ばかりいたが、どうも「私が、俺が、あたいが、僕が」の人が多く、沢山の俺自身を見るようでやめた。
 俳句は、むろん、小中学校の教科書以来知っていたし、もしかしたら自分にも作れるという身近さと、最も短い形の決められた詩として簡潔の美に羨ましさを思っていたし、いる。
 知ったか振りをして、実は無知なもので、俳句は、連歌・俳諧の発句や脇句、前句に対する付句の中での初めの五七五で、明治以後、正岡子規が独り立ちさせたと知ったのは二十年足らず前。しかも、みんなでやる詩なのであり、近現代の“個”に対して“集まり”の文学、こりゃ凄えことだと参る。
 ごめんなさい、短歌型文学になるとついつい我欲で前置きが長くしまうけど、連句をきっちりやり、俳句も当たり前、でも句集は初めてという浅沼璞さんの『塗中録』(本体1500円、左右社)を読んだ。タイトルは、句集の中での吐息というかエッセイにあるように『荘子』からきているらしい。マルクスの史的唯物観論より根源に遡る荘子への思いか。《落葉掻く生き恥の音たてぬやつ》
 老人人口の半分はこう思いつつ……真実。《靴底の花屑知らぬまゝ不倫》
 不倫の、反道徳、夢、近さ遠さを嗤って詩。
 詩歌評論ではかなりの御人の句集で、詩の拡がりと集中の自覚が確かとあり、我ら、好い加減に短歌型文学にやる者には痛くて痛い。







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