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評者◆凪一木
その36 ビル管受験参考書
No.3437 ・ 2020年02月29日




■通称「ビル管」と呼ばれる建築物環境衛生管理技術者試験は、「ボイラー」や「冷凍」のごとく、極小かつマイナーな「消えゆく」分野ではなく、発展途上であり、かつすでに、熟し始めている試験ジャンルでもある。
 電卓やトランジスタラジオなどは技術が円熟して、メーカーによる製品差はほとんどない。冷蔵庫やテレビも、既に新機種は出尽くし、改良の余地なく、オプション競争でしかなくなった。自動車は、性能やデザインで一九四〇年代、既に出尽くしていた。一九四二年ドイツ占領下のフランスで軽量化した電気自動車が開発され、時速八〇キロ走行可能の車であった。成熟するジャンルは、早いうちに飽和に達する。「危険物」の参考書もまた、大学受験同様に飽和点に達して、「良い参考書」が多い。では、「ビル管」はどうか。
 四〇万人受ける危険物や二五万人の宅建士に比べると、最新の受験者で一万一〇〇〇人というビル管理試験は、参考書出版において発行部数的な旨味はない。受験英語で、戦前に出版された『英語基本単語集』(通称「赤尾の豆単」)が席巻していた時代、一九六七年に『試験に出る英単語』が現れる。さらに七五年『奇跡の英単語』、八四年には『英単語ターゲット1900』、そして九〇年代の三大ベストセラー『速読英単語』『DUO』『英単語ピーナツ』。二〇一〇年には、ほとんど参入不可能のはずだった英単語の世界にコンピュータを駆使して出来た革命的な『英単語レボリューションシリーズ』が現れる。
 ビル管試験の参考書(及び問題集)は、今のところ、英単語などに比べると、黎明期を過ぎたあたりだ。まずは「青本」と呼ばれる『建築物の環境衛生管理』が教科書のように語られる。だが所詮は受験用で、教科書と言える存在ではない。上下巻とも九八〇〇円という定価は高くハッキリ言って必要ない。もうひとつオーム社の『合格するためのビル管理受験テキスト(四分冊)』計一万八〇〇円。これも、今やネットで調べる方がもっと局所的に深く知ることができ、返って余計な鋳型でもって古い知識が付けられ、所持している方が振り回されて危険だ。ほかに目ぼしい参考書は全部で二〇冊ある。この数字は、決して多くはないが、受験生一万人という数字を考えると、もはや充分である。
 第二の教科書的に扱われている『ビル管理士要点テキスト』『ビル管理士出題順問題集』コンビも詳しくて試験には無駄だ。本気でビル管理という仕事に取り組むのであれば、教科書的なものは、むしろ参考程度にしか留めなければならず、試験自体もただの通過点程度でしかなく、したがって、この手の本は不要だ。
 さらに『完全突破』シリーズの『テキスト』『受験問題集』二冊と、『合格テキスト』『パーフェクト2500問』は、成熟以前のボイラーレベルに過ぎない。著者は内容を把握していても、読者を知らない。学術論文や企業向けPVとは言わないが、本気で受験する者の実用性に向き合えば、こうはならない。カテゴリー分類は足りないのに、痒いところに手が届いていない。
 単著者(関根康明)による『スーパー暗記法合格マニュアル』『ポケット問題集』は、通勤途中での電車内でのチェックには有効だが、今やネットでこれ以上に活用便利なサイトがいくらでもある。『イラストでわかるビル管理用語集』は、古くからあるビル管必携本の一つで、受験向きではない。
 『ビル管理試験完全攻略』『ラクラクわかる!ビル管理試験集中ゼミ』はオーム社で、分かりやすくもあるが、全問題の解答までには至らない。合格点確保のために「全部は不要」というが、要らないにしてもそれは執筆者側が決めることではなく、読者が選択して決めるのである。
 通称赤本『ビル管理士試験模範解答集』。これは最初の名著(赤尾の豆単)である。受験生の九五%、受験を諦めた者の一〇〇%が買っている本と言える。だが、もう古い。解説が多すぎて、試験前六カ月程度では、余計な時間を奪われて、散漫な知識に陥る。隣ページに答えがないので、使い勝手が悪く、ページのあと先を行きつ戻りつ効率も悪い。『ビル管理士試験もっと過去問題集』は赤本の一〇年分バージョンで同じ。
 通称黒本『全7科目254分類』は分かりやすく、赤本を意識して対抗的な書籍を目指した一つの結果と言える。だがオーム社は、このスタイルでの攻めを諦めたようだ。二〇一九年版が出ていないのは、もう一つの通称「黄本」に賭けたからだと言える。
 多くの参考書がそうであるが、伝熱計算問題(過去一〇年で六度出題)は、どうやっても解けない。これを初めから捨てているような本は、ダメだ。繰り返すが、予め捨てるべき問題を選ぶのは、こちら側であって、本の作者ではない。
 実は、範囲の広さがこの試験の特長であり、最大の問題はモチベーション持続だ。長丁場をどう飽きずに過ごせるか。この悩みを解決できる参考書に尽きるのだ。
 宅建士(旧・宅建主任)試験は、ビル管同様に難関資格の一つだ。五〇問のうち、三五問程度正解で確実に合格する資格でもある。二〇一八年に、AI開発企業「GAUSS」は、問題予想をしたところ、五〇問中三九問を的中させた。つまり、この予想問題の解答だけを暗記して、他の一切の勉強をしなくとも、確実に合格するということになる。試験というものの多くは、応用力や発展的な力を試すわけではないため、対策としては過去問題をいかにこなすかということになる。その上で、どれだけ予想できるか。つまりカテゴリー分類をしっかり分け、自分の相性に合わせて捨てる部分を捨てて勉強する。それが効率としても、短期での勉強法としても、確実である。
 二〇一九年に新たにクリーム色となって新型化した『完全解答』(二〇一七年までは旧来の一〇年分ポイント解説のみで、二〇一八年に「黄本」としてリニューアル)は、巻末に過去の試験問題の該当分野が細かく分類されて、傾向が一目瞭然となっている。そこから辿って別の詳しい解説にも素早く行き着ける。この分類表はすなわちAIであり、他の参考書では無理な「全体俯瞰」ができる。
 この差は勉強時間短縮に大きく作用する。一つの到達点を示したと言える。新時代の幕開けを告げた革命本が現れているのである。私はもちろんこの一冊のみ購入だ。
 オーム社の回し者ではないことを追記する。
(建築物管理)







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