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評者◆伊達政保
危機感に裏打ちされた人間の深淵や社会への怒りを描き出したフィクション――韓国映画の鬼才キム・ギドク監督の『STOP』(2015年)
No.3308 ・ 2017年06月24日




■ベルリン、ベネチア映画祭(‘04)で監督賞、ベネチア映画祭(‘12)で『嘆きのピエタ』により金獅子賞を取った、韓国映画の鬼才キム・ギドク監督。2014年に単身来日し、日本の俳優を使い監督、撮影、照明、録音を全て一人で行った映画『STOP』(‘15)が、ようやく劇場公開された。福島原発事故を題材としたこの作品、その内容と衝撃性ゆえに世界の多くの映画祭で断られ、日本での公開も困難と言われていた。ただ昨年、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で一度だけ上映されて、福島原発事故の放射能被害問題を真正面から取り上げ、日本で撮影された鬼才キム監督の衝撃的内容の作品という評判だけが広まっていた。
 2011年3月11日、東日本大震災。福島第1原発メルトダウン。原発5km圏内に住む若い夫婦は放射能汚染の実態も知らずとどまっていた。突然の強制避難命令により東京への移住。妊娠中の妻は胎児への放射能の影響に不安を抱えている。そこへ政府機関の役人が現れ、国家の方針として中絶を強引に促す。妻はネットでチェルノブイリの胎児被曝の映像を見て徐々に正気を失っていく。夫は放射能被害は何でもないと妻を安心させるため、福島の実態を写真で撮りに行く。
 この辺りからオイラこの夫婦に腹が立ってきた。妊娠中にもかかわらず定期検診も受けない妻、被曝放射線量測定も行わない夫婦。ネットを駆使しながら事実には全く無知で、そうした現実的行動をとらず、短絡的に障がい児出産への恐怖と、産む産まないでの夫婦の葛藤。稚拙な演技(?)も相まってイライラが募ってくる。そこでハタと気が付いた。クソッ! キム監督に上手く騙されちまった。この映画は原発事故被害の事実関係を踏まえたセミ・ドキュメンタリー・ドラマではなく、危機感に裏打ちされた人間の深淵や社会への怒りを描き出したフィクションなのだ。ただ背景となる構造は事実であるが。
 福島に来た夫の前に、避難も中絶も拒否し正気を失った妊婦が現れる。結局、彼女は奇形児を産み落とす(衝撃的シーン)。それを見た夫は取って返し、前言を翻し妻に中絶を求める。逆に妻は放射能をすべて受け入れて産むと言い、福島へ帰り体内被曝も気にせず露地野菜を食べて生活していく。夫は全て電気の消費が悪いと一人で訴え、聞き入れられずに東京への送電線を破壊する。まさに極端から極端へ、人間行動の現実である。妻は福島で一人で子どもを出産する。そして7年後、子どもは聴覚過敏障害を持ちながらも通学している。同級生たちは彼を音でいじめ、彼の絶叫で終わる。フィクションだとはいえ、現在の原発いじめ問題も提示されているのだ。







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