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評者◆秋竜山
〈敗戦〉であってはならない、の巻
No.3446 ・ 2020年05月02日




■小林信彦『女優で観るか、監督を追うか――本音を申せば11』(文春文庫、本体七五〇円)で、
 〈先日、久米宏氏がラジオで「終戦」という言葉はやめて、「敗戦」に統一したら、と語っていた。〉(本書より)
 と、あった。どちらも正しいような気がする。私は子供すぎたから、八月十五日は記憶としては定かではない。隣のねえさんの話では、私は素っ裸でナベにヒモをつけ首にぶらさげて、それをガンガン叩いて外を飛びまわっていた、とのこと。もちろん、そんな記憶もあろうはずもない。〈終戦〉も知らない。だから、〈敗戦〉もわからないことになる。後で聞いたことで、そんなこともあったのかということだった。考えてみると、当時〈終戦〉で、やっと戦争が終結したということで「ヨカッタ!! ヨカッタ!!」と、とらえる人が多かったとか。〈終戦〉に、くやし泣きする人もいたと聞いた。
 もし、〈敗戦〉とした場合、敗けたという響きが、なまなましすぎてショックも大きかったかもしれない。幼児の私には、そんなことは関係なかった。食べものも代用食とかいっていろいろなものを食べた。腹がへった思いはしなかったようであった。戦争というものは敵との殺しあいであるということもしらなかった。わからないままに毎日を過ごしたことになる。わからないということの、しあわせということか。「そういわれてみれば、そーだったかもしれない」世代ということだろうか。
 年月が流れて。新型コロナウイルスとの戦争ともいうべき、まるでSFの世界をやっているような。細菌戦争というようなことを何かの本で読んだこともあった。が、現実だ。ウイルスという眼に見えない敵と人類は戦っているなんて、実際にあるのだと思うと、何か恐怖がというと、確実に死者がふえ続けているということだ。新型コロナウイルスという細菌がテレビで映し出される。どう、とらえればよいのか。今は戦いの最中であるが、必ず終息するはずであるが、その時は〈終戦〉である。〈敗戦〉であってはならないだろう。〈勝戦〉である。
 〈とにかく、日本は戦争に負けて、ラジオから流れる音楽が変わった。軍歌のたぐいは一切いけない。といって、新しい歌はない。よく「リンゴの歌」が流行したといわれるが、故小沢昭一さんはちがうと言っていた。ぼくも、あの歌は、NHKの舞台から並木路子がリンゴを客席にばらまき、飢えた観客が騒然となった放送で記憶している。あるいは松竹の「そよかぜ」(敗戦後二本目の映画)の中で歌われて広まったのかもしれない。なにしろ、当時、映画は歌を広めるためのものみたいだった。〉(本書より)
 〽赤いリンゴに口びるよせて、黙って見ているあおい空……と、いうような歌詞であった。スカーッとした、明るい歌で希望があった。時代が大流行させたのだろう。早くウイルス戦に勝って、あのような明るい歌を大声でツバを飛ばして、うたいたいものだ。新型コロナウイルス戦は、家の中から一歩も外へ出ないで息をひそめていなくては、地球上の人類は絶滅してしまうということは大げさすぎるだろう。
 フトンの中へもぐってふるえていた昔のあの戦争、家の中でマスクして息をころしている今のこの戦争。マスクなしでは外出できない。つまり、せいせいと息もできない戦争である。マスクなしで、ガブリと赤いリンゴをかじりたいものだ。まてよ!! リンゴを丸かじりできるはずもなかろう。歯のほうは大丈夫か。







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