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評者◆小嵐九八郎
春樹文学が少し好きになりかけた――村上春樹著『猫を棄てる――父親について語るとき』(本体一ニ〇〇円、文藝春秋)
No.3454 ・ 2020年07月04日




■前回のこの欄で、天下の大作家の村上春樹氏の『ノルウェイの森』について、駄目作家の俺が「『雰囲気に乗せ』、『常に執行猶予』、『無思想性』ゆえの流行り」と書いたら、週刊誌の編集者の“いかず後家”である娘に「親父は不勉強、ほら最新刊のこれ、読みなね」と、割あい薄い本をどんと突きつけた。
 なるほど、当方は『ノルウェイの森』以来、もしかしたら、かなり偏って村上春樹氏の小説に付き合ってきたのかも知れない。原因は、その小説の最初の方に出てくる1969年秋の早大のバリスト解除のところで「学友を煽ったのに、機動隊によってバリが除かれると真っ先に授業を受けにきた」旨のところがあり、こちんとなったからだ。だけど待て、俺は大学を卒業しても早大と日大の間を往復する毎日だったから知っているけど、これは早大の文学部構内には近寄れなかった三派全学連系や全共闘系の学生じゃなくて“闘う者の背中が好き”なK派のことだと納得しかかった、然もありなんと。しかし、そのすぐ後に「日帝=産学協同路線に鉄槌を加える」とのスローガンを含めて主人公の“僕”の批判があり、「産学協同路線」の言葉は社青同解放派の俺んところ、K派は「産学協同政策」としていたわけで、やっぱり俺達への批判、批難かと、やや早とちりしてしまった。ま、スローガンの「欺瞞的」などの言葉遣いは、やっぱり小賢しいK派のものと、五年前に再読して分かったのだけど。
 だから、アルバイト先の大学や全国紙のカルチャー・センターでは『ノルウェイの森』だけでなく『風の歌を聴け』、『ねじまき鳥クロニクル』など五冊をテキストとして使ってきた。皆さん、激しい賛辞を送っていた。
 それで娘が突きつけたのは『猫を棄てる』(本体1200円、文藝春秋)だ。平和時の、父と子が猫を捨てる話と父の戦争中の推測の人殺しによる炙り出し、そして、歴史というのが一人一人のそれぞれの経た生によって全体があるとのテーマが、わからんちゃんの俺にも解った。大上段に振り翳ずに説き伏せる力、謎の使い方の巧みさ、文章の含みを持った“反”短歌型文学的な厚みと。
 やっと、春樹文学が少し好きになりかけた。







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