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評者◆snowcat
無害な人になりたくてなれない葛藤
となりの国のものがたり5 わたしに無害なひと
チェ・ウニョン著、古川綾子訳
No.3458 ・ 2020年08月01日




■ひとりが嫌で、寂しいのが嫌で、他人と違う生き方が嫌。わかる。わかるよ。わたしも昔はそうだった。自分はこの広い世界でたったひとりぼっちなんだと思っていた。それを口に出すことはなかったけれど。感傷的な言葉はなるべく表に出さないようにしていたから。弱さをさらけ出せる相手はひとりもいなかったから。
 かといってひとと親しくなれば、一緒にいる時間が長くなれば、互いに傷つけ合うのは免れない。ひととちょうどよい距離感を保つのに、わたしは何年もかかる。今も付き合いのある学生時代の友人たちとは、何事もなく友人関係が続いてきたのではない。崩れてしまった関係をうまく修復し続けてきたから今がある。お互いに対する愛がなければ、とっくに疎遠になっていただろう。
 チェ・ウニョンは恋愛に発展する一歩手前の友達関係や、他人だけども強いつながりのある兄弟姉妹の、心の機微を描くのがとてもうまい。日本だろうと韓国だろうと、ひとが何に心を動かされ、何を嫌悪し、後悔し、愛おしく思うのかは変わらない。だから『わたしに無害なひと』のような国を越えて共感できる本が生まれる。
 読んでいる間は、心の深海まで潜っていくような、暗さと静けさとを感じた。心の奥深いところで、時々あらわれる淡い光のゆらめきが、わたしを孤独から守ってくれた。
 無神経な言葉でひとを傷つけ、苦しみを与えるような大人にはなるまい、と子どもの頃に思っていたチェ・ウニョン。そんな大人になっていないか、文章で人を傷つけてはいないか、それをとても怖がっているひと。「無害なひとになりたい」。そんな作家が描く世界は、きっと多くの日本人が共感できると思う。







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