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評者◆小嵐九八郎
「いま、ここ」における自己によって――多羽田敏夫著『滅亡を超えて――田中小実昌・武田泰淳・深沢七郎』(本体一八〇〇円、作品社)
No.3461 ・ 2020年08月29日




■ある縁で、死して二十五年が経つ田中小実昌さんの、おっと、この欄では生者には敬称を用い、死者には用いていないので、田中小実昌についての論の本を読んだ。それは『滅亡を超えて――田中小実昌・武田泰淳・深沢七郎』(本体1800円、作品社)だ。但し、かなり古い評論集で二〇〇七年刊である。著者は団塊の世代というか全共闘世代の多羽田敏夫さん。入手は書店での取り寄せが確実。
 俺が田中小実昌の小説に出会ったのは、若い頃はいろいろあって、獄中にてだった。直木賞作品の『浪曲師朝日丸の話』と『ミミのこと』を読み、前者は戦争孤児を引き取った美談の持ち主が偽善者として暴かれたのだが、しかし、その孤児の一人一人を実に健気に愛していることで、う、う、と呻いた。後者は耳が聴こえず話すことも儘ならぬストリッパーの女との角逐で、田中小実昌であろう語り手は浮気者ゆえ振られる話で、女が実に哀しく映った。
 それで、田中小実昌という作家は、とても易しい文で、かなりの哀歓の深さをよこす作家と思いきや、谷崎潤一郎賞をもらった『ポロポロ』の冒頭の、父親の信仰に関する小説に仰天した宗教的恍惚の上の“異言”の話とは決められず、言葉とか信仰の心とか行為を超える地平の話かと半信半疑のまま思っていた。ここを知りたくて、作家になってから、やっぱり小実さんとしましょう、こちらから接近したら川崎の売春街の赤提灯で「言語、とりわけ小説の文章は本当を言い表せないものね」と躱されてしまった。
 こういう浅はかな当方の推測とは異なり、真っ向から、多羽田敏夫さんは対峙していて、宗教的な、あるいは絶対的なもの、考え、営為を「いま、ここ」における自己によって超え、解体を図ったと主張しているように思える――そうだったのか。
 この評論集には併せて武田泰淳の“滅亡”との争闘の凄み、あの反西洋近代主義の土俗の名作『楢山節考』、右翼によって死傷者を出した『風流夢譚』を書いたギター奏者の深沢七郎の陰惨な小説の芯を解明している。二人のキャラクターの捉え方は文豪なみ。







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