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評者◆DB
ベイカー街の脇役たちの冒険の話
ベイカー街の女たち――ミセス・ハドスンとメアリー・ワトスンの事件簿1
ミシェル・バークビイ著、駒月雅子訳
No.3461 ・ 2020年08月29日




■ベイカー街221Bは、ホームズの居住する部屋であり依頼人が訪れる事務所でもある。大家さんであり、家政婦のような存在のハドスン夫人は、ドイルの聖典にもよく登場するけれどあくまでも脇役のひとりだった。
 メアリー・モースタンは「四つの署名」事件でこそ依頼人として頻繁に登場したが、ワトスン夫人となってからはワトスンの台詞で出てくるくらいだ。本作はそのハドスン夫人とメアリー・ワトスンを主人公にしたベイカー街の裏物語です。
 ハドスン夫人を語り手に、ホームズの知らないところで解決されたミステリーの一つ、という形になっている。夫が戦死し、忘れ形見の息子も病気で亡くしたハドスン夫人は、失意のうちにロンドンへ移り住む。下宿屋の女将としての仕事を覚えて、ベイカー街にやってきます。最初の下宿人は折り目正しい生活をし、朝食とお茶を頼むくらいで模範的な下宿人だったが、ハドスン夫人としてはつまらなかった。そんな時に現れたのがホームズ。一目で彼を気に入ったハドスン夫人は、彼を下宿人として迎えることにし、すぐにワトスン博士も加わってベイカー街での物語が始まるのだ。
 ハドスン夫人の秘密は、ホームズとワトスンがいつも客を迎える居間とハドスン夫人が日中いる台所が通気口でつながっていて、蓋を開ければ居間の声が聞こえてくるということだった。ある日、若い女性の依頼人がホームズの元を訪れる。ホームズの質問に「お答えできません」を繰り返したためホームズに追い返される。いつもならなだめ役として側にいるはずのワトスン博士が仕事だったことも原因のようです。
 ともかく追い出された女性ローラは、ハドスン夫人とお茶を飲みに来ていたメアリー・ワトスンに勧められて台所に招き入れられる。そこでホームズには話せなかった悩みを彼女たちに打ち明けます。
 話を聞いたハドスン夫人とメアリーは、ローラの事件を自分たちで捜査してみることを決意する。有意義な時間を過ごしたい、自分たちも紳士たちに負けないくらい有能であることを証明したい。そんな願望から、ハドスン夫人とメアリーはシャンパンを飲みながら約束を交わす。
 こうしてハドスン夫人とメアリー、それにベイカー・ストリート・イレギュラーズのボスであるウィギンズやホームズの給仕ビリーを仲間に、あのアイリーン・アドラーまで登場しての大冒険が繰り広げられる。ドイルの短編集「高名な依頼人」に似ている部分もあったが、女性たちのみの冒険も面白い。蚊帳の外に置かれたホームズとワトスンの心配ぶりもなかなか笑えます。
 一番面白かったのは、事件の鍵となる地図を隠してホームズに見せなかったビリーに「給料を払っているのは僕なのに」とぼやくホームズ。それに対し「そうですね。でもご飯を作ってあげているのはわたしですから」というハドスン夫人のひと言。続きもあるようなので楽しみに待っていようと思います。







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